2021-3-24中国進出―中国を知る(204)その動向の根源は何か?

 中国の覇権主義的行動が顕著になり、警鐘を鳴らす各種書物が相次いで発行され、政治面では日米豪印四ヶ国の連携強化等の動きがあるが、25-6年間中国各地に滞留、都合60年近く中国政府の中堅幹部を含め各方面との交流して来た体験から観察すると、大きな欠陥を有しているとしか思えない。それは判断基準を自分達の価値観や風俗習慣のみに置いているからである。古来「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」と言われるように、外交面でもこの通りであろう。

本論に入る前に若干例示すると、ウイグル、チベット等に関して人権侵害だと非難するが、人権の解釈が異なり、中国では全く人権侵害等していないと解釈、軍隊にしても「国軍」とは呼称せず台湾・人民解放の「解放軍」と言い、その様に理解している。尖閣諸島にしても中国が毎日巡回監視して実効支配していると勝手に理解し、宣伝している。斯様な相違は何処から来るのか?

1.中国共産党やその支持者である知識人は、世界の三大文明の中で、連綿として現代に繋がっているのは中国のみと豪語している。更に清朝の世宗(雍正帝)から高宗(乾隆帝)時代、即ち18世紀の中頃は当時の世界中の富の三割は中国から生み出され、断トツ世界一だったが、19世紀に入ると支配層の堕落や内乱が相次ぎ、1840年のアヘン戦争での敗北を始めとして列強諸国から干渉、侵略されるに至った(沢山の租界地建設や日本による満州国の建国等)と認識し、これ等は何としてもリベンジしたいとの認識に変化して来ている。特に日本に対しては、古代文明ではほとんど無償で各種の文明遺産を伝授したにも拘わらず、近代以降ひどい仕打ちを受けたとの思いがある。彼らの考え方は条約や一定期間の援助などでは帳消しに出来ないとの強い潜在意識がある。例えば内モンゴル自治区は名称は自治区だが、漢民族が大量に入植し人口の80%を占めるに至り、昔元帝国として支配された事へのリベンジを果たした。又清朝を建国した満州族に対しては同化政策を推進し、統計では1000万人の満州族が居ることになっているが、満州文字を読める人は一部の学者などを除いて殆ど居なくなってしまった。対日感情では北鮮・韓国も同様であり、日本への師匠大先輩との意識のない台湾等とは決定的に異なる点である。この様な事情は政権が交代しても強弱の相違はあるものの、永続すると見た方が良さそうである。

2.中国共産党政権の対外政策は、上述の如き事情を踏まえて、統一の維持を前提とした“力(チカラ)”こそ、全てに優先するとの考え方に基づいている。これは習近平政権のみではなく、誰が政権を握っても変わらないと見るべきであろう。その力は、経済力、軍事力、ソフトパワーの三つに分けられるが、ソフトパワーは更に三つに分類される。即ち、情報力、宣伝力、心理戦力である。しばしばアメリカで問題視されるが、他国からの情報入手に関しては時と手段を選ばずとの手練手管を行使する。当然ながら外資系企業の占有技術情報や民間の観光事業での人の往来を通じてのものもある。逆に外国人が中国の情報を入手した場合は、過大と思われるほど厳しく処罰する。友好的と見なされた日本人がスパイ容疑で拘束される事件が多発しているのもその一例である。モノを盗むのは悪事であるが、盗まれるのは盗む以上に悪いことである、との中国の風俗習慣はここでも通用する。余談だが日本で多発している「オレオレ詐欺」等は、警戒心の強い中国では滅多に発生しないであろう。宣伝力に関してはことの是非に拘わらず、自分たちに有利になると思える主張は、手を変え品を変えて繰り返して何度でも宣伝し、中国の主張が正しいと思い込まれるまで続けようとする。単なる宣伝戦ではなく、心理戦でもある。中国の軍事力への懸念はしばしば取り上げられるが、このソフトパワーこそ優先度第一として対処すべきであろう。

3.歴史に学べという主張も、中国は平気で時代錯誤とも見做せる考え方を基礎に主張している。例えばチベットやウイグル族弾圧など、とことん彼らと議論すると、「何言ってるんですか?!アメリカ始め南北アメリカ大陸にはもともと白人等居なかったのに、散々原住民を弾圧・抹殺して、自分達に都合よい国にしてしまったではないか!我が国の少数民族政策の方が、遥かにマシだよ!」と云うのも一例です。

  • 中国大陸は共産党政権が発足した後にも、幾多の変化があり、その悪くなった変化に着目して繰り返し、繰り返し反撃すべきであろう。例えば:戦前中国各地に租界地を作るなど、日本は海洋国家であるにも拘わらず、大陸国家でもあらんとしたが、中国はこの教訓を活かしていない。1972年の国交正常化の時に「日中双方は覇権主義に反対する」と厳粛に約束したはず。最近の動向はこの約束に反しているだけでなく、大陸国家である中国が同時に海洋国家たらんとしているが、必ず海洋国家群より長期的な反撃に遭い、失敗するであろう。
    • 尖閣諸島は明々白々日本の領土であり、中国でも1954年ごろ出版された世界地図では日本の領土と線引きされている由、その地図を探し出して明示する等、中国が反論しにくいデータを何度でも宣伝すべきであろう。国連の海底資源調査により、近接する海底には石油や天然ガスがありそうだと発表された途端、自国領と言い出した。これでは日本に古代文化を伝授した誇り高き偉大なる中国人なら、恥ずかしくて泣くであろう、と主張すべきである。
    • 少数民族問題も、新中国成立後暫くは西側諸国に向かって「民族自決」を主張し、宣伝しており、南アフリカのアパルトヘイト政策に対しては、国境を越えた人類共通の問題として中国も反対していた。北京にある少数民族問題を展示宣伝する施設の民族文化宮(かなり前だが見学したことがある)では、少数民族の立場を擁護し、その風俗習慣を尊重し、抑圧者への反対を明示していたではないかと主張すべきであろう。
    • 「民主主義」について、最近のアラスカでの米中会談では、中国側は、アメリカにはアメリカ風の民主主義があり、中国には中国風民主主義がある、と反論したが、歴史を俯瞰した観点から、日本も主張すべきであろう。即ち封建主義が大勢を占めていた時代から、人類の歴史は国家的権力者や権力機構に対して、批判し又は反対する組織を結成し活動する自由が保障される様に発展して来ている。この人類の文化、政治の発展は国境を超えた人類共通の成果であり、又民主主義の要(かなめ)であり、内政問題等と言う限定的なものではない。
    • 人類に止まらず、動植物に至るまで生き物は、環境に多大な影響を受け進化している。周囲は13の国や民族と陸続きで、歴史的に抗争を繰り返してきた中国は、その影響を今なお内在しており、近代に至る迄外国勢力を感ずることなく、接する人は見知らぬ人々に対しても、仲間意識を持って生活してきた日本人とは決定的に異なる。即ち家族や同郷人に対しては特別に気遣いするが、見知らぬ人々には冷淡な中国人と日本人では決定的に異なる。中国人にとっては往々にして日本の友人達は冷たいと感ずることがあり、一方多くの海外からの来訪者が日本人は、大変温かく親切と感ずることが多いのも原因は同根である。通信及び交通の発達に従って地球が相対的に狭くなってきている現代、日本的な風俗習慣が世界の主流になるであろう。

 

以上、やや総括的にまとめたが、人によっては理解し難い点もあろうし、日本の対応策への言及が足りないと感ずる向きもあろうかと思うので、次回更に補足したい。

 

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