中国人幹部社員が取引先と“喧嘩”になった時、多分絶対に言わない、日本人でも言わないと思われる必勝法を若干伝授しよう。相手を見下げた様な物言いは最悪であるが、勿論事前に相手側の契約履行能力がどうか調査しておくのは、前提条件です。
要点はやはり「褒め殺し」です。
1.中国はテレビが急速に普及し始めた頃、沢山の電子部品製造ラインを導入し始めた。私も極小部品の生産ラインの輸出契約をした。納入検収する為試運転すると、沢山の不良品が発生した。ユーザーは設備の不良と認定、然し日本の技術者がチェックしたところ、設置した工場建屋内の温度のバラツキがひどかった。その様に指摘し、改善要求しても、先方は譲らず水掛け論が続いた。中国側も契約書に添付した設置室の条件、特に温度分布は実現不能だが、何とかなると見ていた様だった。そこで、私はユーザーの自力だけでは改善不能と見て、突拍子もない発言をした。即ち「曾って毛主席は、“中華民族は偉大な民族である、日本民族も偉大な民族だ”と、述べたことがある。日本民族は特別偉大な民族と私は思わないが、偉大な中華民族である皆さんが、この程度の設置室条件の準備できないとは思えない」と主張し、時間はかかったが、生産ラインの投入部、ライン中間、最後尾まで、温度の均一度が契約範囲内に収まり、生産される部品も規格内に収まったことがある。ユーザーのみならず上部機関や関係機関含め、先方は必死で対策を講じたものだった。
2.「中国は信義の国である。私はそう信じて貴方と契約した。信義を尊重しないなら、貴方達を中国人とは認めない。中国人であると自認できる方々と再交渉したい」として、無茶なクレームを引っ込めさせたり(輸出の場合)、納期を守らせたり、品質クレームを認めさせたりした場合もある(購買の場合)。
3.小さな計測機器を、何億と言う大量の輸出契約で喜んだことがある。然し納入完了 後暫くして、20%近い納入品に対して品質不良だから交換せよとの商品検験局の検験証書を添付されたクレームを受けたことがある。メーカー内部で検討した結果商品検験局の検査員の技量不足と判明した。先方の面子も考慮して、貿易公司を通じ上海と天津の商品検験局に「技術的相互理解を深めよう」と、一般化した形式で技術交流を申込み実現した。その結果暫くすると、前に出してきた検験証書は殆ど取り下げるとの連絡があり、一件落着となったこともある。
4.20年余前の話だが、鉱物の輸入契約でサギまがいの被害にあったことがある。「含有量は40%」との条件だったが、殆ど石ころ同然であった。先方は当初「輸出した“鉱物”の40%には指定元素が含まれている」との、詭弁を弄してきた。
中国政府外郭団体である、中国国際貿易仲裁委員会に相談に行ったところ、委員会より先方に問合せがされた。即反応があり輸出先より代替品を再輸出したいと言い出してきて、解決したこともある。
5.中国との貿易交渉は往々にしてマラソン交渉となった。輸出商談で中小メーカーの製品の場合、専務さんとか常務さんが商談に参加する為北京に来られる場合も多かったが、結局双方の主張が離れていて妥結不能になった場合も少なくない。
そんな場合、メーカーからの出張者は「日本でも多忙であり、最後の提案も認めて頂けないなら、本件はなかったことにして、私は明日の便で帰国します」と宣言して席を立たれたことも随分ある。面白いことに、翌日空港に見送りに行くと、貿易公司の担当者も見送りに来ましたと言い、気まずさそうに「昨夜、公司内部で討論しましたが、先生の最後の提案を受入れることにしました。ここにその条件で契約書を作成して来ましたので、此処でサインして下さい」とのこと。この様な事例も少なくなかった。貿易公司のスタッフより、「遠来の客人を手ぶらで帰してはならない」との格言があるとも聞いたことがあるが、真偽の程は分からない。
柳沢経歴 http://www.nakatsu-bc.co.jp/komon/komon-2.html
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