2011年 4月の記事一覧
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東日本大震災が起こってからちょうど1か月が過ぎた。まずは、行方不明者の発見、被災者の生活の安定化、福島原発の冷温化を願って止まないが、同時のこの間に自分なりに感じたこと、考えたことを少しずつ整理していきたい。
最初は危機管理におけるリーダーシップの問題だ。東日本大震災では、困難に耐え忍ぶ日本人の美点と危機的状況におけるリーダーシップの弱さと言う日本人の課題が同時により明らかになった。特に後者は企業の経営に直結する問題であるので、これを改めて考えてみたい。
経営論にはいわゆるリーダーシップ論なるものがあり、リーダーシップのタイプやあり方が論じられているが、私にはあまり役にたつようには思えない。リーダーシップは非常に複雑な問題であり、単純な一般論は極めて基本的な常識でしかない。もっとも、理解していることと実行できることは別物なので、この点は忘れてはならないと思うが。
私が今回真剣に考えなくてはならないと思ったのは、専門家の集団を活用したリーダーシップの在り方である。
今回の東日本大震災は、未曾有の規模の広域地震災害に原発事故という質的に特殊な危機が重なった、言わば超複雑で深刻な状況である。このような危機的状況では、的確な情報の収集と一元管理、極めて明確な優先順位の設定、時間管理に対する極度の鋭敏さ、それらに基づく迅速で的確な意思決定、適切な内外コミュニケーションが重要になる。普段の経営と変わらない要素であるが、それらの要求レベルが限界的に高くなる点が異なる。
問題の本質は、それらをリーダーがどのようにして実現できるかということである。もはやタイプ論ではない。極めて複雑な状況が刻々と変化し、それらに対処するための情報も資源も限られているからである。
手短に私の仮説から言えば、それは一種の組織論である。普段から、「本当の専門家」は誰かを課題や状況別に細かくしっかり把握しておくこと、課題や状況に応じてそれらの「本当の専門家」による臨時の疑似組織の編成を即座に指示すること、「本当の専門家」からのアドバイスと自ら設定した明確な優先順位に基づいて迅速な意思決定を行うこと、それらの要点をコミュニケーションの「本当の専門家」の支援を受けつつ自ら発信することがポイントである。すなわち、「本当の専門家」であるテクノクラートの集団と一体となったリーダーシップである。
今回の福島原発事故では、「本当の専門家」が誰であるかについての大きな混乱があったのではないだろうか。具体的には差し控えるが、事故に対する現場での対処から、テレビ報道における問題まで、私はこの問題が大きかったと考えている。私自身は、信頼に足る情報をテレビではなく(正確にはテレビに加えてだが)、インターネットやYouTubeから得ていた。
「本当の専門家」を見抜くことは、専門家でない人にとっては大変難しい作業で、それ自体ジレンマを抱えている。時間をかけて自らの理解力や感度を上げていく他はないが、短時間に効率良く行う方法を工夫することはできる。
私自身は、コンサルティングの中で、新しい組織を設計すると同時に組織の運営に関与する適切な人材の見極めを手伝って欲しいと依頼されることがある。もし一緒にプロジェクトをやっている人であれば、かなり正確に判断することができると自負しているが、そうでない人の場合はインタビューをさせてもらって判断することになる。
そのようなインタビューの際の質問内容は、課題や状況によって当然変わってくるが、その組織や状況において本当に何が必要か、重要になって来るかについては相当深く考える。少し昔になるが、若手コンサルタントの素質の見極めについて、面接者によって判断が異なるなかで、正確に行うために自分なりに考えた一つの質問があった。
それは、「これまでの人生のなかで最も深く悩んだ、あるいは考えたものは何ですか?仕事でもプライベートでも構わないので、差し支えない範囲で話してもらえますか?」というものだ。その人の物事の受け止め方、考え方、対処の仕方を最も限界的なケースで理解することができる。つまり、能力の限界を垣間見ることができるというわけである。戦略系の経営コンサルタントに必要な資質は、細かく言えばいろいろあるが、詰まるところ「問題解決力」すなわち物事をゼロベースで深く考える能力であると考えたからである。
「本当の専門家」を見抜くもうひとつの方法は、比較対象になる人達の間で対談や議論をしてもらうことである。ワンウェイではなくツーウェイのコミュニケーションにはメタ情報(情報の情報)、簡単に言えば相互作用を含んだ豊かな情報が表れるからである。
さて、中間が長くなったが、「本当の専門家」テクノクラートを組織の内外に普段から見つけておくことが危機に的確に対処するための欠くべからざる準備となるが、実際の危機にあたってテクノクラートによる専門家集団を活用する際に注意すべき点がある。
それは、既存の組織と臨時のテクノクラートの集団による組織の関係である。経営者すなわちリーダーは、瞬時に既存の組織を越えた言わば超組織に頭を切り替え、「本当の専門家」による最も確からしいアドバイスや行動を行ってもらうための臨時の疑似組織(会議体を含む)を編成しなければならないが、その際に既存の組織や人に対する遠慮や保身があってはならない。
しかし、現実にはそれに反することが行われていることが多いのではないだろうか。危機的状況の認識能力と裏腹の問題であるとも言えるが、そもそもの優先順位の設定からしてリーダーの資格がないと言われても仕方がない。
そのような経営者のリーダーシップとは、私が若手の経営コンサルタント候補に顕在的/潜在的な資質として求めたものと本質的に同じだろう。「物事をゼロベースで深く考える能力」とは、「状況を正確に認識し、シミュレーションする能力」に他ならないからだ。
経済社会が益々複雑にグローバルに連携する度合いを増していく今日、経営者には普段から危機管理に関する思考訓練が欠かせない時代になったと言えるだろう。
先程、午後2時46分、東日本大震災の発生からちょうど1か月、ここ浦安市でも震災の犠牲者に対して黙祷が捧げられた。
ヴィブランド・コンサルティング
代表取締役 澤田康伸
最初は危機管理におけるリーダーシップの問題だ。東日本大震災では、困難に耐え忍ぶ日本人の美点と危機的状況におけるリーダーシップの弱さと言う日本人の課題が同時により明らかになった。特に後者は企業の経営に直結する問題であるので、これを改めて考えてみたい。
経営論にはいわゆるリーダーシップ論なるものがあり、リーダーシップのタイプやあり方が論じられているが、私にはあまり役にたつようには思えない。リーダーシップは非常に複雑な問題であり、単純な一般論は極めて基本的な常識でしかない。もっとも、理解していることと実行できることは別物なので、この点は忘れてはならないと思うが。
私が今回真剣に考えなくてはならないと思ったのは、専門家の集団を活用したリーダーシップの在り方である。
今回の東日本大震災は、未曾有の規模の広域地震災害に原発事故という質的に特殊な危機が重なった、言わば超複雑で深刻な状況である。このような危機的状況では、的確な情報の収集と一元管理、極めて明確な優先順位の設定、時間管理に対する極度の鋭敏さ、それらに基づく迅速で的確な意思決定、適切な内外コミュニケーションが重要になる。普段の経営と変わらない要素であるが、それらの要求レベルが限界的に高くなる点が異なる。
問題の本質は、それらをリーダーがどのようにして実現できるかということである。もはやタイプ論ではない。極めて複雑な状況が刻々と変化し、それらに対処するための情報も資源も限られているからである。
手短に私の仮説から言えば、それは一種の組織論である。普段から、「本当の専門家」は誰かを課題や状況別に細かくしっかり把握しておくこと、課題や状況に応じてそれらの「本当の専門家」による臨時の疑似組織の編成を即座に指示すること、「本当の専門家」からのアドバイスと自ら設定した明確な優先順位に基づいて迅速な意思決定を行うこと、それらの要点をコミュニケーションの「本当の専門家」の支援を受けつつ自ら発信することがポイントである。すなわち、「本当の専門家」であるテクノクラートの集団と一体となったリーダーシップである。
今回の福島原発事故では、「本当の専門家」が誰であるかについての大きな混乱があったのではないだろうか。具体的には差し控えるが、事故に対する現場での対処から、テレビ報道における問題まで、私はこの問題が大きかったと考えている。私自身は、信頼に足る情報をテレビではなく(正確にはテレビに加えてだが)、インターネットやYouTubeから得ていた。
「本当の専門家」を見抜くことは、専門家でない人にとっては大変難しい作業で、それ自体ジレンマを抱えている。時間をかけて自らの理解力や感度を上げていく他はないが、短時間に効率良く行う方法を工夫することはできる。
私自身は、コンサルティングの中で、新しい組織を設計すると同時に組織の運営に関与する適切な人材の見極めを手伝って欲しいと依頼されることがある。もし一緒にプロジェクトをやっている人であれば、かなり正確に判断することができると自負しているが、そうでない人の場合はインタビューをさせてもらって判断することになる。
そのようなインタビューの際の質問内容は、課題や状況によって当然変わってくるが、その組織や状況において本当に何が必要か、重要になって来るかについては相当深く考える。少し昔になるが、若手コンサルタントの素質の見極めについて、面接者によって判断が異なるなかで、正確に行うために自分なりに考えた一つの質問があった。
それは、「これまでの人生のなかで最も深く悩んだ、あるいは考えたものは何ですか?仕事でもプライベートでも構わないので、差し支えない範囲で話してもらえますか?」というものだ。その人の物事の受け止め方、考え方、対処の仕方を最も限界的なケースで理解することができる。つまり、能力の限界を垣間見ることができるというわけである。戦略系の経営コンサルタントに必要な資質は、細かく言えばいろいろあるが、詰まるところ「問題解決力」すなわち物事をゼロベースで深く考える能力であると考えたからである。
「本当の専門家」を見抜くもうひとつの方法は、比較対象になる人達の間で対談や議論をしてもらうことである。ワンウェイではなくツーウェイのコミュニケーションにはメタ情報(情報の情報)、簡単に言えば相互作用を含んだ豊かな情報が表れるからである。
さて、中間が長くなったが、「本当の専門家」テクノクラートを組織の内外に普段から見つけておくことが危機に的確に対処するための欠くべからざる準備となるが、実際の危機にあたってテクノクラートによる専門家集団を活用する際に注意すべき点がある。
それは、既存の組織と臨時のテクノクラートの集団による組織の関係である。経営者すなわちリーダーは、瞬時に既存の組織を越えた言わば超組織に頭を切り替え、「本当の専門家」による最も確からしいアドバイスや行動を行ってもらうための臨時の疑似組織(会議体を含む)を編成しなければならないが、その際に既存の組織や人に対する遠慮や保身があってはならない。
しかし、現実にはそれに反することが行われていることが多いのではないだろうか。危機的状況の認識能力と裏腹の問題であるとも言えるが、そもそもの優先順位の設定からしてリーダーの資格がないと言われても仕方がない。
そのような経営者のリーダーシップとは、私が若手の経営コンサルタント候補に顕在的/潜在的な資質として求めたものと本質的に同じだろう。「物事をゼロベースで深く考える能力」とは、「状況を正確に認識し、シミュレーションする能力」に他ならないからだ。
経済社会が益々複雑にグローバルに連携する度合いを増していく今日、経営者には普段から危機管理に関する思考訓練が欠かせない時代になったと言えるだろう。
先程、午後2時46分、東日本大震災の発生からちょうど1か月、ここ浦安市でも震災の犠牲者に対して黙祷が捧げられた。
ヴィブランド・コンサルティング
代表取締役 澤田康伸
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