「おいおい、まてよ熊さん」
「なんですかい?おやっさん」
「あんたが、お店を出すって言うから、わたしゃ、あんたがまたとんでもない失敗しやしないかと心配で」
「へえ、ですから、何が心配なんで?」
「あんたが出す店の立地ですよ」
「リッチ?そりゃ何ですかい?」
「立地も知らないでお店を出すのかい?」
「あたしはリッチになりたいんですが」
「そのリッチじゃあないの。いいかい。ここにお座り。説明してあげるから。どうせ、不動産屋の藤さんに、家賃が安いとか何とか言われて、その気になって決めたんじゃあないのかい」
「へい。まったくその通りで」
「いくら家賃が安くったって立地がだめなら大損するんだよ」
「えっ。そりゃあたいへん。あたしの腕でもだめですかい?」
「あんたの腕でもだめなんですよ。いくらあんたが腕の良い職人でも、立地がだめならだめなんですよ」
「いや。そりゃあたいへん」
「いいかい。まず、この町はそんなに大きくない。それに、若い人は皆、隣町に遊びに行っちゃって普段はいやあしないよ。一番良い立地で店を出したって、せいぜい10人のお客さんがくればいいほうよ」
「そんなもんですかねえ」
「それに、あの場所、駅からぜんぜん見えないでしょ。それだけで10人中3人はお客さんになりませんよ」
「えっ?まあいいじゃありませんか。ひーふーみー。まだ7人くるじゃありませんか?」
「とんでもない。商店街にもないじゃありませんか。住宅地に入ったところでしょ。それにね、あんたのとこは、坂の途中でしょ」
「だめですかい?」
「だめですよ。それで7人のうちの3人は来ませんよ」
「えっ。それじゃ、ひーふーみー、4人しか来ないんですかい?」
「それだけじゃありませんよ。商店街の入口には、熊さんと同じくらい腕の良い職人が店を構えているでしょ。この影響でまず2人は減っちゃう、それに熊さんのお店は、お客が2人も入ったらいっぱいでしょ。これでまた2人は帰っちゃう」
「なんですかい。ていうと、ありゃゼロになっちゃった」
「あれ、どこへ行くんだい?…もう帰って来たよ。どうしたの熊さん、ちゃんと藤さんに断ってきたかい?」
「へい、あんまり悔しいんで、リッチの馬鹿やろーって、怒鳴ってきました」

【解説】
起業家の皆さんは、しっかり投資して経費さえかければ、売上げは自然についてきて利益も生まれると、ついつい考えがちではありませんか?
どっこいそんなことはありません。これは、どんな有名チェーン店でも同じです。例えばマクドナルドやセブンイレブンでも、売上げはどの店も違います。同じチェーン店なら、どの店も同じだけ売れていたって良いはずなのに、です。月に500万円しか売れない店もあれば、月に5000万円も売れる店もあるのです。
それに、もうひとつ、どんなチェーン店もその7割は、平均以下の売上げしかないのです。
では、何で決まるか。
これが、立地といわれるものです。
要するに、お店の売上げは、そのお店がどの場所にあるかによって決まってしまうのです。場所が良ければ、早い話、努力しなくても売れますし、利益も出る。反対に、場所が悪ければ、いっくら努力しても売れない。利益も出ない。
この売上げを左右する場所があることは、経験的に知られていることなので、「立地」といわれています。

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