マスコミは2010年を電子書籍元年として、電子書籍が大型ビジネスに成長すると大きな期待を寄せていた。しかし、現実は期待どおりにはいっていない。電子雑誌も、電子新聞も、同様に、予想通りの業績をあげていない。ハードウェアのメーカーは、ソフトウェアの数が少ないのが原因と主張し、ソフトウェアを用意する出版社はハードウェアの販売数が少ないのが原因と主張している。ここでも、ソフトウェアとハードウェアの論争が始まっている。

ソフトとハードの論争というと、すぐにVHSとベータの戦いが思い出される。そして、ベータの敗戦はソフトが少なかったからだと結論づけてしまう。しかし、ソフトが少なかったというのは結果であって問題ではない。なぜ、ベータが敗戦したか。それは、ベータ陣営が一般消費者の求めるものを正しく理解していなかったからである。VHSとベータと比較すれば、性能は間違いなくベータのほうが優れている。問題は、ソニーが消費者の求めるものを正しく理解せず、自社の技術的優位を誇って、本来、産業用市場で能力を発揮すべきベータを、消費者向け市場に投入したことにある。ここでも、顧客の視線で、ビジネスを理解した松下幸之助氏の偉大さが理解できる。

同様なことが、パナソニックの3Dリアルについても言える。3Dリアルが失敗に終わったのは、ソフトがなかったのが原因ではない。ソフトがなかったというのは結果にすぎない。パナソニックは、ゲーム機を子供だけでなく成人にも使ってもらえるように、様々な機能を組み込んだ。そのため、価格が5万円以上の高額になってしまった。当時は、ゲーム機は15歳までの子供が最大の顧客であった。つまり、最大の顧客は子供であり、真の購入者は両親、特に、母親であった。5万円以上のゲーム機を子供に買い与えることのできる母親は少ない。また、ゲーム機で音楽を楽しもうと思う成人はどのくらいいるのか、あるいは、CDが聞けるゲーム機を求める子供がどのくらいいるのか、少し考えるとすぐ分かることである。商品のポジショニングが間違っている。

時代は変わって、電子書籍の現況をみると、なんと、最大のソフトは携帯電話で配信されるマンガで、売り上げの80%以上を占めている。さらに言うなら、そのほとんどが恋愛マンガで、読者は、ほとんどが10代の女性である。つまり、遊び感覚で携帯を使って恋愛マンガを読んでいる10代の女性が最大の顧客なのである。お世辞にも書籍とは言えない商品が売れ筋になっている。

マーケティングでいう、商品のポジショニングは非常に重要である。事前に商品のポジショニングを十分に検討しないと、発売と同時に、商品は予想もしない方向に飛んでいってしまう。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)