商品の価値を示す価格は誰が決めるのか。「商品の価格はお客様が決めてくださる」と説いたのは、松下幸之助氏である。至言である。素晴らしい商品を安価に提供しても、お客様が購入してくれなくては、ビジネスは成立しない。米国のグランド・キャニオンで原住民が製作した工芸品を売っている土産物屋があった。誰が見ても素晴らしい工芸品なのに、全然売れない。そこで店主は、価格を三分の一にして販売するように、従業員に言い残して帰宅してしまった。残された従業員は三分の一という指示を間違えて、価格を3倍にして販売した。すると、工芸品が飛ぶように売れたという実話が残っている。

つきつめると、どのような商品であっても、価格は交渉で決まる。単価が10,000円の商品も10億円のプロジェクトも価格は交渉で決まる。ただ、購入者と販売者が直接交渉するか、しないかというだけの違いである。過去には、大阪の繊維問屋街で販売員がそろばん片手に、店頭でお客様と値段の交渉をする光景は普通にみられた。インターネットを使ったビジネスが普及し始めた頃、インターネットを利用して価格の交渉を可能にしたのが、米国のプライスラインである。消費者がインターネット上で航空会社と交渉して、売れ残った航空券を納得できる価格で購入するというシステムである。ネットオークションもこの流れの一つと考えることができる。

インターネットの黎明期に、バーチャル商店街や業界別検索サイトを考えた人物は多い。しかし、プライスラインのようにインタラクティブ・コミュニケーションという観点で、ネット上で価格交渉を可能にするビジネスを展開した企業は少ない。世の中には頭のいい人物はいるものである。米国からかなり遅れたが、日本でも価格交渉をネットで可能にしたサイトが次々と登場している。どのように商品を定義するかを熟考すると、交渉の対象になる商品は無限に存在する。シェフの創作料理の価格を消費者が決定するサービスがすでに登場している。これも消費者がシェフの発想力を価格で評価していると考えると、プライスラインのビジネスモデルに源流を見ることができる。

インターネットのおかげで、どのような商品であっても、販売している企業も驚くような知識量をもっている消費者が存在する。これからは、そのような消費者を取り込んで商品開発を進めることが重要になってくる。松下幸之助氏の「商品の価格はお客様が決めてくださる」という至言は、いつの世にも生きている。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)