英国最大手の小売業であるテスコが日本市場から撤退する。2005年には、フランス最大手の小売業であるカルフールが日本市場から撤退している。これで、世界小売業の2位と3位が日本市場から撤退し、西友と組んでいる世界最大の小売業であるウォルマートだけが残るだけという結果になった。こうなると、すぐに、消費者の品質に対する厳しい要求などの、日本市場の特異性が議論の対象になる。しかし、それは問題の一部でしかない。

日本という国は、日本人という単一民族が国民の大多数を占める国である。しかし、市場は高度に細分化されていると考えなくてはいけない。基本的には、都道府県別に細分化されているが、同じ県内でも、場所によっては、歴史と文化が違っている。例えば、青森県内でも、かつての南部藩と津軽藩では、歴史も文化も違う。逆説的ではあるが、単一民族の国であるから、それだけに市場が高度に細分化されているといえる。No. 1 細分化と差別化 (April 20, 2009) で強調したように、商品と市場の差別化は、市場開拓には絶対に必要な条件である。極端に言えば、日本全国に小売店の数が1万店あれば、1店たりとも同じ顔であってはならない。つまり、店舗のある地域・市場の特性に対応した店舗運営とサービスの提供を研究する必要がある。

缶コーヒー、お茶、ビール、週刊誌等をみれば、日本市場では、商品と市場が高度に細分化されているのが理解できる。外資の小売業で短期に業績を伸ばすことができたのは、トイザラスであるが、トイザラスの場合は、日本に進出した時には、玩具の量販店がなかったのが、成功の大きな要因である。これに比較して、2年前に撤退した文房具販売のオフィス・デポや音楽ソフト販売のヴァージン・メガストアーズは、やはり販売が低迷して、それぞれ日本市場から撤退している。つまり、規模の経済性だけで、他店よりも商品を少しでも安く提供しようという姿勢だけでは決して上手くはいかない。

海外市場でも国内市場でも、市場開拓で一番難しいのは、商品と市場の細分化と、それを十分に機能させることができる流通網の整備と確立である。海外企業が日本企業を買収し、既存の店舗ネットワークを存続させながら規模の経済性だけでビジネスを拡大させるのは、非常に難しい。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)