2010年 9月の記事一覧

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10年09月20日 13時58分54秒
Posted by: 戦略研究.com
九州にある船舶用機械の大手メーカーが破綻した。その破綻までの経緯を読むと、あまりも楽観的な事業展開に唖然とする。この企業は、1980年代後半の造船不況以降、約20年間にわたって粉飾決算を繰り返していた。そして、取引先の地方銀行は、その粉飾決算の事実を知っていて、この企業に融資を続けていたというからさらに驚く。当然、この銀行の経営が悪化し、さらに大きな地方銀行グループの子会社になった。このような状況になっても、この企業は銀行が支援を続けてくれれば、再建が可能だったと主張する。このような企業の楽観的なビジネス感覚を見ていると、日本振興銀行が破綻したのも理解できる。これでは、一時話題になった、返済猶予構想も何の役にも立たない。

粉飾決算を続けていたという事実とともに、この企業がおかした戦略上の大きな間違いは、造船事業へ参入したことである。つまり、船の一部だけを請け負っていたものを、船全体を造る側に回ったことである。その決断を可能にしたのが、国内外の船主から得た、「造船をやれば注文を出す」という約束。そして、大量受注に備えて、中国で約165万平米という造船所を建設した。この造船所は完成すれば、日本企業の造船所のなかで最大規模になるはずであった。こんな大きな造船所を作って、もし受注が止まったらどうするのか。事業はギャンブルではない。規模の経済性で日立造船のような大企業と競争しょうと考えることがすでにギャンブル思考である。

過去に、飯山電機という優れたフラットスクリーンCRTで有名な企業があった。CRTの優れた技術と好調な売上に気をよくしたのか、パソコンの製造販売を始めた。そして、市場から消えていった。まったく、このケースの企業と同じ。部品を作るのと、完成品を作るのとは全く違うビジネスである。さらに、完成品ビジネスに参入すると、競合会社が加速度的に増えることを考える必要がある。自分たちのビジネス領域に参入した新規企業を温かく迎える企業はない。既存の企業は、新規企業を叩き潰そうとする。当然である。これから、一緒にがんばりましょうというのは、表向きの顔であることを理解する必要がある。

昔、キヤノンがノートブックPCの製造販売をしていた時期があった。社長が交代したときに、直ちに撤退している。これが正しい戦略である。後に経団連の会長になられたこの社長の決断力の素晴らしさが理解できる。キヤノンのような超優良な大企業といえども、ビジネス領域を安易に広げる時代ではない。この企業の経営者は、松下幸之助氏の「企業は二階に上がる努力をする必要はあるけれども、一度に二階には上がれない」という教えを学ぶべきであった。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
10年09月13日 10時26分31秒
Posted by: 戦略研究.com
米国のハイテク企業が倒産し、そのあおりで福島県の会津若松市にある日本法人も倒産した。この米国企業は、NOR型という種類のメモリーの専業メーカーで、世界市場で30%のシェアを握っていた有力企業である。NOR型メモリーの将来性にかけ、日本法人に1,000億円超もの投資をして、NOR型メモリーを作る最新鋭の製造装置を揃えた。このグループの2007年の売上高は2,000億円。その状況で1,000億円超の投資をして新工場を建設したのだから、計画がうまく行かない場合はどうなるか誰にでも予測できる。

このような企業は一種のコスト病に罹っていると言っても過言ではない。大量生産で安く作って、できるだけ多くのシェアを獲得する。そのためには大規模な専用ラインが不可欠になる。専用ラインとは、汎用性がほとんどないラインを意味する。しかも、設備も機械も大規模になればなるほど、仕様変更することは大きな投資が必要となり、ほとんど不可能になる。また、今をときめく最先端の技術も、いつ時代遅れになるか分からない。そのときに、このような大規模投資で建設した設備をどうするのか、誰も考えない。考えるのは、大規模設備で大規模に製造すれば、コストがさがり、市場にどっと流すことが可能になるという夢ばかり。

どのようなビジネスでも、もうかるビジネスには企業が次々と参入し、競争が激しくなり、製品コストは下がる。それと並行して、既存の技術を負かす技術が現れる。また、下位にある商品の性能も向上して、市場のすみ分けが難しくなる。かつて、ミニ・コンピュータというコンセプトで市場を独占したデジタル・エクィプメントという米国企業があった。しかし、パソコンの性能が大幅に向上し、パソコンとの市場のすみ分けが不可能になると売上が急落し、市場から消えていった。急速に進化する技術を見誤った。

以上のような環境の変化が起こったら、どのように対処するかも考えておく必要がある。このような大規模の専用ラインだと、大規模であるがゆえに、次世代の製品に仕様を合わせることは、多額の投資が必要となり、経営資源に余裕がないと難しい。中堅企業にとって、設備投資は一発勝負で決定するものではない。小規模から始めて、少しずつ拡大するべきである。小規模のラインだと、市場の動向にあわせて仕様を変更するのも、大規模ラインと比較すると容易に行える。一度に大規模な設備を建設すると、労働力もさることながら、設備を維持するためのコストは、必ず当初の予定を上回る。これは政治の世界を見れば容易に理解できる。政治の世界では、税金で穴埋めできるが、ビジネスの世界では、まったく話は違ってくる。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
10年09月06日 10時17分42秒
Posted by: 戦略研究.com
精密・家電大手メーカー向け部品の受注で、急成長した金属部品加工で有名な企業が民事再生法の適用を申請した。この企業の得意先には、日本光学、ソニー、IBMといった大企業の名前が並ぶ。特に、日本光学の協力工場のなかでは、御三家と呼ばれていた有名企業である。大手企業とのビジネスに誇りを持ちすぎて、自社で技術と得意先を開拓する努力を怠った。いつまでも「法人の山一」という金看板を下ろすことができず、市場から消えていった山一證券を思い出させる。

大手企業の厳しい要求を満たすため、設備投資は欠かせない。そうなると、設備を遊休化させるわけにはいかないので、利益率の低いビジネスも引き受けるようになる。この企業は、04年にアップルから大口の受注を得た。しかし、アップル側の要求に応えた結果、原価が売価の何倍にも膨らんで、赤字受注になった。しかも、アップル向けの売上が全体の40%にまで拡大していった。いくら大量の注文があっても赤字受注では、会社は倒産へ直行である。そして行く末は粉飾決算。過大すぎた設備投資が、完全に裏目に出た格好である。

東京都内に、時計の文字盤や避難経路の誘導板に使用する夜光塗料で有名な企業がある。90年に放射性物質を含むそれまでの塗料を廃止する動きが時計メーカーに広まった。そこで、この企業は社運をかけて代替品の研究に取り組み、3,000回以上の実験を重ねて、放射性物質を含まない物質を主体にした塗料を完成させた。この素晴らしい商品は、あっという間に世界市場に広まり、現在は世界市場で80%のシェアを誇っている。また、放射線を扱う過程で得た検知技術を活用して、煙センサーや新薬の研究支援などに手を広げている。どれもあまり景気に左右されない分野で、リーマンショックの影響も少なくてすんでいる。

上記の2社を比較すると、目先の売上に目を奪われ、大手と取引しているとプライドを捨てることができず、自社の技術を開発する努力を忘れた企業と、地道に自社の強みを掘り下げた企業の差がはっきりと出ている。さらに、中堅企業は、大手企業とのビジネスに大きく依存するべきではないという教訓を与えている。よく大手企業は冷たいと言われる。しかし、大手企業といえども、生き残りに必死なのである。このことを理解する必要がある。ビジネスでは、最後に頼るのは自社の強みである。ドラッカーが説いているように、「自社の強みを掘り下げる」努力をしないと、市場から淘汰されてしまう。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
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