不動産物権変動と登記⑤
記事投稿日2014年09月24日水曜日
投稿者:一般社団法人エースマンション管理士協会 カテゴリー: General
6 契約の取消しと第三者
① 契約の取消し前の第三者
Aが自己所有土地についてBと売買契約を締結し、さらにBが当
該土地についてCと売買契約をした後に、Aが契約を取り消した場
合について、Aが善意の第三者に対抗できないのは、詐欺を理由
に取消した場合だけである(民法96条3項)。制限行為能力を理由
に取り消した場合と強迫を理由に取消した場合には、善意の第三
者の保護規定がないので、Cが善意・無過失であっても、また登記
をしていても、AはCに対抗できる。無権利者から譲り受けても保護
されないという原則である。
なお、詐欺による取消しの場合、条文は「善意の第三者」に対抗
できないとあるが、善意であれば足りるのか、さらに登記をも必要
とするかについては、争いがある。判例もこの点は明らかではない。
明確に登記をしなければ保護されないという判例はないようである。
さらに、善意・無過失を要するとする学説もあるようだ。Cに登記が
必要だという説によると、AとCは、先に登記をしたものが優先する
という。
この問題を出題する場合、ここらの争いがあることを念頭におい
て、問題の作成をしてほしい。本番の試験では、Cが善意・無過失
で、移転登記をしている事例を出して、このようなCにはAは対抗で
きないとしている。極めて適切な出題である。第三者Cが善意・無
過失で登記をしていれば、保護されることに問題がないからである。
模擬試験などでは、この辺の争いに無頓着な出し方をしている場
合があるので注意が必要である。
ついでに言うが、通謀虚偽表示(心裡留保で無効な場合も)で無
効な場合について、善意の第三者に対抗できないという規定があ
るが(民法94条2項)、ここでいう第三者については、善意であれば
足り、登記も必要ではないというのが判例である。同じ文言であり
ながら、当事者間の利害関係を考慮して文言にないことを加えた
りするのが法律の解釈である。
② 契約の取消し後の第三者
AがBとの土地の売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後に、
BがCに当該土地を売却した場合、AとCは、先に登記をした者が
優先する(判例)。これは、詐欺による取消しに関する事例の判例
であるが、詐欺による取消しに限らず、強迫や制限能力を理由に
取り消した場合でも、同様に考えるのが通説である。制限行為能
力者については、取消権を与えて保護しているが、取消権を行使
して契約を取り消した以上、その後は、通常の取引関係での登記
のルールに従うべきだからである。
土地が契約の取消しによりBからAに所有権が復帰するのと、B
からCに所有権が移転するのは、B→A、B→Cと二重に譲渡され
た場合と同様に考えるのである。
BからAへの登記は通常抹消登記であるが、移転登記がなされ
ることもある。いずれの登記をするにも、ABの共同申請が必要で
あるが、Bが協力しないときは、裁判所の確定判決がなければ登
記はできない。
こういう場合には、Aは、仮登記を申請することができる。仮登記
も共同申請が原則であるが、Bが協力しないときは、裁判所で、
「仮登記を命ずる処分の決定」を受ければ単独で仮登記の申請が
できる。仮登記をしておけば順位が確保できる。仮登記を命ずる処
分の決定は、確定判決と異なり、簡易迅速に決定が出る。
また、この土地はいま所有権を争っているということを公的に表す
(公示する)ために、処分禁止の仮処分を裁判所に申立てて登記を
することができる。これをすることによって、取消し後にCが現れるこ
とを防止できる。
こういうことをしないから、AはCに負けてしまうのである。
平成19年度【問6】肢1、平成22年度【問4】肢2など多数。
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