1 民法の規定によれば、売買契約において売主が買主に対して負う担保責
 任として、①瑕疵担保責任、②全部他人物の場合の責任、③一部他人物の
 場合の責任、④数量が不足な場合(数量指示売買)又は一部が滅失してい
 た場合の責任、⑤用益権による制限の場合の責任、⑥担保物権(抵当権・
 先取特権)による制限がある場合の責任である。①は物に瑕疵がある場合
 であり、②~⑥は権利に瑕疵がある場合である。

  なお、ここでは、買主が悪意であっても、担保責任を追及できるもの
 摘しておく。これを覚えれば、それ以外は善意(瑕疵担保責任の場合に
は、
 無過失も)でなければならないから、覚える必要はない。悪意でも追
求で
 きるのは、全部他人物売買の「解除」→ 全解、一部他人物売買の「代

 減額」→ 一代、抵当権付
(担保)物件の売買の「全部=解除・損害賠償・
 費用の償還」→ 担全、である。各自でゴロ合わせを作っておけば楽である。

2 ここからは、瑕疵担保責任に限定して見ていくことにする。まず、土地
 建物のような特定物売買に瑕疵担保責任が適用されることは問題ない。
 新品のテレビ・冷蔵庫等のような不特定物の売買にも瑕疵担保責任が適
 用
されるかについては、争いがある。瑕疵担保は債務不履行とは別個の
 法定
責任だとして、特定物売買に適用されるとするのが、通説のようだ。
 この
説によると、不特定物に瑕疵があるときは、債務不履行の不完全履
 行とな
る。他方、瑕疵担保責任は、債務不履行(不完全履行)の一種とし
 て、不
特定物にも適用されると考える説もある。判例は、色々あるようだ
 が明確
にどちらの立場だと確定していないように見える。つまり、「法定
 責任」と
か「債務不履行」だとか言わずに、その都度それぞれの規定を適
 用して妥
当な判断をしているのである。
  我々としては、土地や建物の売買(特定物売買)を念頭において考えれ
 ばよい。いずれの説によっても、特定物売買には、瑕疵担保責任の規定
 が
適用されるからだ。

  
瑕疵担保責任が発生する場合、買主に要素の錯誤がある場合がある。
 こ
の錯誤の規定との関係についても、争いがある。買主は、いずれかを
 選択
して主張できるとする説や、瑕疵担保責任が適用される以上、錯誤
 の規定
は排斥されるとするものもある。しかし、判例は、要素の錯誤ある
 場合、
瑕疵担保責任の規定は排斥されるとするものもある。

  出題者は、このように争いがあり、必ずしも判例が確定していない問題
 については、これらの争いのある問題に踏み込まずに解答ができるよう
 に
問題を工夫して作成してもらいたい。

3 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用す
 る。
ただし、強制競売の場合には、この限りではない(民法570)566
 条の
規定は、1で見た⑤の用益権による制限の場合の責任に関する規
 定である。
だから、売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、売買の
 目的物が用益
的権利によって制限されている場合と同様、買主は、その
 瑕疵によって契
約の目的を達成できないときには、契約を解除し、かつ、
 損害賠償の請求
ができる。そうでないときには、損害賠償の請求だけを
 することができる。
  契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が瑕疵を発見したときから1
 年以
内にしなければならない(民法5663)

(1) 瑕疵とは、通常物質的な欠陥があることである。欠陥があるかどうか
  は、一般に目的物が通常有すべき品質を備えないことであるが、売主
  見本や広告により特殊の品質・性能を有すると示したときは、その
特殊
  の標準によってこれを定める。

(2) 売買の目的物に法律的な瑕疵がある場合、例えば、買い受けた土地
  が
都市計画法の規定によって建物が建築できないような場合についても、
  判例・通説は瑕疵担保責任の問題として処理している。

(3) 瑕疵が「隠れた」ものであることが必要である。その意味は、取引界
  要求される普通の注意を用いても発見されないものである。いいか
えれ
  ば、買主が瑕疵を知らず、かつ、知らないことに過失がないこと
である。
  つまり、買主は善意・無過失でなければならない
(判例・通説)
   民法570条で準用する民法5661項の規定には、「買主がこれを知
  ら
ず」とあり、善意しか要求していないが、瑕疵担保責任には、この部分
  は準用されないのである。
   だから、一般的な標準からいって発見し得ない瑕疵でも、買主が特に
  知っているときは(又は知らないことに過失があるとき)、瑕疵担保責任
  は生じない。

 (4) 売主は、無過失の責任を負う。

 
(5) 買主は、瑕疵を発見した時から、1年以内に契約の解除や損害賠
   償の
請求をしなければならない(民法5663)。その間に必ずしも
   訴え
をする必要はなく、担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げれ
   ば足
りる。
    なお、この場合、消滅時効に関する民法167条の規定の適用もあ
   る。
したがって、買主が、目的物の「引渡しを受けた時」から、10年を
   経
過すると、瑕疵担保責任の追及は消滅時効によって消滅する。そ
   の間
に瑕疵を発見できなかったときでも、10年の経過により担保責
   任の追
求権が時効消滅するのである。解除権(形成権である)は、債
   権ではないが、ここでは、債
権と同様10年で消滅すると解されている。

 (6) 民法は、強制競売の場合にも、一定の制限の下に、担保責任を認
   めて
いる(民法568)。しかし、瑕疵担保責任は、強制競売の場合に
   は認
められない(民法570条ただし書)。民法は強制競売(強制執行
   の一つ
の方法として、民事執行法に基づく競売)とあるが、任意競売
   (抵当
権等の担保権の実行としての競売)も含まれていると解されて
   いる
(
例・通説)

4 瑕疵担保責任を負わない旨の特約の効力
  瑕疵担保責任に関する規定は任意規定であり、特約の効力は有効で
 ある。
ただし、売主は、「知りながら告げない事実」については、その責任
 を免れ
ない(民法572)。その他、「自ら第三者のために設定し又は第
 三者に譲り
渡した権利」についても担保責任を負わないが、それは権利
 の瑕疵につい
てのものであり、瑕疵担保責任では考える必要はない。

5 宅建業法の問題
  宅建業法では、「売主が宅建業者で買主が宅建業者でない場合」、瑕
 疵担
保責任の追及期間を「目的物の引渡しの日から2年以上」とする特
 約をす
る場合を除いて、民法の瑕疵担保責任より、買主に不利な特約を
 してはな
らない(業法401)。不利な特約をすれば、その特約は無効
 となる
(
402)
  目的物の引渡しの日から2年以上とする特約を除いて、買主に不利な
 特
約は無効としている。ということは、目的物の引渡しの日から2年以上
 と
する特約は、例え買主に不利であっても有効になるということである。
 何の特約もないときは、引渡しから2年目に瑕疵を発見した場合、買主
 は、その時から1年間(引渡しから3年間)は瑕疵担保責任を追及でき
 る。
ところが、瑕疵担保責任を負う期間を2年間と特約したとしよう。こ
 の
場合には、買主が引渡しから2年目に瑕疵を発見した場合でも、引
 渡しか
ら2年経過しているので、買主は瑕疵担保責任を追及すること
 ができなく
なる。この特約は、民法の規定よりも買主に不利になること
 があっても、
有効としたのである。
  買主が、引渡しから間もなく瑕疵を発見したときは、目的物の引渡し
 の
日から2年間とする特約は、買主に有利であることはいうまでもない。

6 平成25年度の管理業務主任者試験
【問 40 宅地建物取引業者(下、本問において「A」という。)が、
地建物取引業者でない
(下、本問において「B」という。)に対し、中

マンションを売却した場合における瑕疵担保責任についての特約に関す
次の記述のうち、民法及び宅地建物取引業法の規定によれば、有効
なものは
いくつあるか。
ア 「売主Aは、買主Bとの売買契約締結の日から2年間瑕疵担保責任を
 負
う」旨の特約
イ 「瑕疵がある場合、買主Bは損害賠償請求と瑕疵の修補請求をするこ
 と
ができるが、いかなる場合でも契約の解除はできない」旨の特約
ウ 「売主Aは、買主Bが売買契約締結当時に知っていた瑕疵については、
 その責任を負わない」旨の特約
エ 「売主Aは、その瑕疵についてAに何らの過失もない場合は、その責任
 を負わない」旨の特約
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ

正解 1
×ア 無効。設問は、引渡しの日から2年間ではなく、「売買契約締結」の日
  から2年間瑕疵担保責任を負う旨の特約であり、無効となる。
×イ 無効。瑕疵担保責任の内容は、損害賠償の請求と目的を達成できな
  い
ときの契約の解除である(民法5661)。設問は、民法に規定され
  て
いない「修補請求をすることができる」という点は買主に有利であり、
  この点は有効である。しかし、「いかなる場合でも契約の解除はできない」
  という旨の特約は、買主に不利であり、この部分は無効となる。特約の
  部無効である。
〇ウ 有効。瑕疵担保責任は、「隠れた瑕疵」について、売主が責任を負う。
  「隠れた」というのは、「買主が瑕疵らついて気がつかなかったもので、
  かつ、その気がつかなかったことに過失がない」という意味である(判例・
  通説)。つまり、買主は、瑕疵(欠陥)について、善意・無過失でなけれ
  ならない。だから、買主が、瑕疵を売買契約締結時に知っていた場合

  は、そもそも「隠れた瑕疵」ではなく、瑕疵担保責任は発生しないと
いうこ
  とである。特約は、この当然のことを特約しているにすぎない。
   もちろん、有効である。
×エ 無効。瑕疵担保責任は、売主の無過失責任であり、売主に瑕疵につ
  い
過失がなければその責任を負わない旨の特約は、買主に不利であり、
  無
効となる。
 以上より、有効なものはウ一つであり、1が正解。

 ア、イ、エは、売主の瑕疵担保責任は成立するが、特約が買主に不利な
約があり、その特約は無効になるというものである(業法40)。無効な
部分
は、特約がなかったものとして、民法の瑕疵担保責任が適用される。
 ところが、ウは、そもそも瑕疵担保責任が成立しないという民法の規定を
確認的に特約するものであり、宅建業法40条の問題、つまり、瑕疵担保責
任は成立するが、買主に不利な特約であるから無効、有利であるから有効
いう問題ではないことに注意すること。

 なお、瑕疵担保責任の特約がある場合、それは重要事項(業法35条)
の説明事項ではないが、売買・交換の場合には、契約書面(業法37条)
の記載事項である。