宅建・管業 過去のミス問題の検討⑧
記事投稿日2014年05月15日木曜日
投稿者:一般社団法人エースマンション管理士協会 カテゴリー: General
平成25年度管理業務主任者試験
【問 30】 次の記述のうち、区分所有法及びマンション標準管理規約によ
れば、不適切なものはいくつあるか。
ア 管理組合が、大規模修繕工事の実施に向け、一級建築士事務所とコ
ンサルティング契約を締結する場合において、理事会が、同契約の締結
を管理組合の業務に関する重要事項であると判断したときは、契約の締
結に関する決定を理事会の決議で行うことができる。
イ 管理組合に専門委員会を設置するには、理事会の決議で設置すること
ができる場合がある。
ウ 理事長が管理費等の滞納者に対して、管理組合を代表して管理費等
の支払請求訴訟を提起するには、マンション標準管理規約によれば、理
事会の決議で行うことができる。
エ 理事長が、外壁に穴を開けた区分所有者に対して、共同の利益に反
することを理由に区分所有法第57条に基づき原状回復を請求するには、
理事会の決議で行うことができる。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
×ア 不適切。管理組合の業務に関する重要事項については、総会の議
決事項とされている(標準管理規約48条15号)。理事会の決議で行う
ことができるというのは、不適切である。
〇イ 適切。理事会は、その責任と権限の範囲内において、専門委員会を
設置し、特定の課題を調査又は検討させることができる(標準管理規約
55条1項)。
〇ウ 適切。理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事
会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行する
ことができる(標準管理規約60条3項)。
〇エ 適切。区分所有者が第6条第1項に規定する行為(建物の保存に有
害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益
に反する行為)をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、
他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、行為の停止等(差止請
求)を請求できる。この差止請求は、裁判外(訴訟外)でもできる。この
場合、各区分所有者が請求できるのである。総会の決議や理事会の
決議は不要である。ただし、より慎重を期すために理事会の決議を得
て行うことも、あえて不適切とは言えないであろう。しかし、この問題が
「原状回復を請求するには、理事会の決議を得なければできない」とあ
れば、不適切である。また、訴訟を提起する場合には、必ず総会(集会)
の決議(普通決議)が必要である(区分所有法57条2項)。そして、法人
ではない管理組合においては、全員で訴訟追行をするのは面倒である
から、管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議
により、訴訟の提起ができる(同3項)。あらかじめ規約で訴訟追行がで
きるものを定めておくことはできない。だから、規約で理事会の議決を経
て訴訟の提起ができると規定しても、その規約は無効である。設問は、
この点は明確にしていないので、訴訟外と考えて解答すればよい。もし、
原状回復の「訴訟」を理事会の決議を経て行うことができるとあれば、
明らかに不適切である。
試験の実施機関が、エについて、適切とも不適切ともいえるとして、1と
2を正解としている。
出題者は、標準管理規約の第67条第3項第1号を根拠にしてこの問題
を出題したのではないかと思われる。また、試験の実施機関が適切とも不
適切とも言えるとしているのは、問題の肢のどこを根拠にしているのかが
不明である。
どうも、出題者も、試験の実施機関も、区分所有法57条の問題と、標準
管理規約67条3項1号の問題を明確に区別せず、混同しているように思
われる。標準管理規約は、67条3項で「区分所有者等がこの規約若しくは
使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者以外
の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事
長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。」として、同
1号において、「行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の
請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること」
と規定している。
標準管理規約では、差止めや現状回復のための「訴訟」についても、理
事会の決議を経てできると規定している。これによると、エの肢は単純に
適切となりそうである。出題者の意図もそこにあったのではないかと思わ
れる。しかし、この規約の規定は、「規約・使用細則等に違反したときや不
法行為を行ったときの措置」についての規定であり、設問のエで聞いてい
る区分所有法第57条 でいう区分所有法第6条第1項に規定する行為(建
物の保存に有害な行 為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者
の共同の利益に反する 行為)に関するものではない。
「規約違反等の行為に対する措置」につい ては、区分所有法57条は規
定していない。区分所有法に規定していない事項については、法律(区分
所有法等)に違反しない限り、管理組合が規約で定めることができる(区
分所有法30条1項)。
標準管理規約のこの規定は、区分所有法57条とは別個の規約違反等
に関する措置であり、両者は矛盾するものではない。区分所有法57条の
規定の適用範囲と標準管理規約のこの規定の適用範囲を明確に区別し
て理解する必要がある。両者はその守備範囲が異なるのである。
したがって、平成22年度【問36】の肢2は「規約違反者に対し当該規約
違反行為の 差止めを求める訴訟の提起に関する承認又は不承認」につ
いては、理事会の決議のみで行うことができるものである。
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