収納口座、保管口座、収納・保管口座
記事投稿日2014年07月14日月曜日
投稿者:一般社団法人エースマンション管理士協会 カテゴリー: General
1 マンション管理適正化法では、管理業者は、修繕積立金その他国土交通
省令で定める財産については、整然と管理する方法として国土交通省令に
定める方法により、自己の固有財産及び他の管理組合の財産と分別して管
理しなればならないとしている(適正化法76条)。極めて簡単な規定である。
これを受けて、国道交通省令では、国土交通省令で定める財産として、管
理費用に充当する金銭又は有価証券としている(適正化法施行規則87条1
項)。したがって、財産管理の対象となるのは、修繕積立金や管理費に充当
する金銭又は有価証券ということになる。
そして、修繕積立金や管理費(以下修繕積立金等という)が有価証券であ
れば、金融機関等に、当該有価証券(受託有価証券)を自己の固有財産及
び他の管理組合の財産である有価証券の保管場所と明確に区別させ、か
つ、当該受託有価証券が受託契約を締結した管理組合の有価証券である
ことが判別できる状態で管理させる方法をとらなければならない(適正化法
施行規則87条2項2号)。有価証券についての規定は、これだけであり、極
めて簡単である。
2 問題は、修繕積立金等が金銭である場合の管理である。これについて規
則で詳しく規定している。以下のイ、ロ、ハの三つの方式を定めている。
① イ方式
区分所有者から徴収された修繕積立金等を「収納口座」に預入し、その
月分の「管理費用」を控除した残額を翌月末までに「保管口座」に移し換
え、「保管口座」で預貯金として管理する(施行規則87条2項1号イ)。
② ロ方式
区分所有者から徴収された「修繕積立金」は直接「保管口座」に預入し、
預貯金として管理され、「管理費」は、一旦「収納口座」預入し、その月分
の管理費用を控除した残額を翌月末までに「保管口座」に移し換え、「保
管口座」で預貯金として管理する(施行規則87条2項1号ロ)。
イ方式との違いは、修繕積立金は、直接保管口座に預入されることで
ある。
③ ハ方式
区分所有者から徴収された修繕積立金等を「収納・保管口座」に預入
し、その「収納・保管口座」で預貯金として管理する(施行規則87条2項
1号ハ)。
管理費用もこの口座から拠出するわけである。
確認事項
ア 「収納口座」の名義は管理業者でもよい(施行規則87条6項1号)。
イ 「保管口座」と「収納・保管口座」の名義は管理組合等でなければなら
ない(施行規則87条6項2号、3号)。
ウ 「収納口座」が管理組合等名義である場合でも、印鑑等(印鑑とカー
ド等)を管理業者が管理することができる(施行規則87条3項2号、4項
参照)。
エ 「保管口座」と「収納・保管口座」の印鑑等を管理業者は管理できない
(施行規則87条4項)。
一定の短い期間(管理者が選任されるまで)の例外はある。
オ 通帳はいずれの通帳でも、管理会社が保管できる。
3 管理会社が保証契約を締結しなければならないのは、どういう場合か。
マンション管理会社は、上のイ、ロの方式の場合、保証契約を締結しな
ければならないが、次の場合にはその必要がない。
①修繕積立金等が「管理組合名義」の「収納口座」に直接預入される場
合又はマンション管理業者(委託業者も含む)が修繕積立金等を徴収しな
い場合で、かつ、②管理業者が、管理組合等を名義人とする「収納口座」
の印鑑等を管理しない場合である(施行規則第87条3項1号、第2号)。
テキストなどでは、上のように、条文の通り記載している場合が多く、こ
れを見て、すぐに理解するのは困難である。
要するに、管理業者名義の収納口座ではなく、また、集金代行業者等を
介さずに修繕積立金等が組合員から直接管理組合等名義の収納口座に
預入(通常は振り替え)されて、かつ、管理業者が管理組合等名義の印鑑
等を管理しない場合には、保証契約は不要である。
逆に、保証契約が必要な場合は次のイ、ロ、ハである。
イ 収納口座が管理業者名義であれば保証契約が必要。
ロ 収納口座が管理組合等名義であっても、管理業者が印鑑等を管理す
る場合には、保証契約が必要。
ハ 収納口座が管理組合等名義で、管理業者が印鑑等を管理しなくても、
管理業者が管理費等の収納事務を集金代行業者に再委託する場合に
は、保証契約が必要。
このハがあるため、ちょっと複雑になっているのである。
以上の三つの場合には、管理業者や収納代行業者が、一時的にでも、修
繕積立金等を実質的に支配しており、管理組合の支配が及ばないので、管
理組合を保護するために、管理業者に保証契約を求めたのである。
「保証契約が必要」というのは、管理業者が破産等した場合に、収納口座
にある金銭を管理組合が失うおそれがあるので、管理業者に代わって保証
人がそれを保証するためである。管理業者は、一般社団法人マンション管
理業協会(管理業務主任者試験の実施団体である)等と保証契約を締結し
なければならないのである。
なお、保証額についてみると、イ方式の場合は、管理費と修繕積立金の
1ヶ月分以上の金額。ロ方式の場合は、管理費の1ヶ月分以上の金額であ
る。要するに収納口座には、1ヶ月分以上は金銭が残っていないことを前
提にしているのである。
1ヶ月分以上というのは、国土交通省総合政策局不動産課長の「関係業
界団体の長」あての通達によると、「収納口座」に必要最小限度の剰余金
を管理組合の承認で残すことが認められる。その必要最小限度の剰余金
を想定したものであり、2ヶ月分や3か月分という意味ではない。
4 マンション標準管理委託契約書の別表第1について
1(2)の出納について、4種類が規定されている。
第1は、保証契約を締結して甲の収納口座と甲の保管口座を設ける場合
④ 甲(管理組合)の経費の支払いとして、乙(管理業者)は、甲の収支予算
に基づき、甲の経費 を甲の「承認の下」に甲の収納口座から、又は甲の
「承認を得て」甲の保管口座から支払うとある。
ここでは、「承認の下」にと「承認を得て」と表現を使い分けしていることに
注意してほしい。「承認の下」にというのは、既に事前に支払いの承諾があ
り、支払いの都度の承認は必要でないということである。これに対して、「承
認を得て」というのは、支払の都度承認が必要ということである。
ここでは、「保証契約を締結して」甲の収納口座と甲の保管口座を設ける
場合であるので、収納口座の印鑑等を管理業者が管理している場合であ
り、印鑑等を預けた時点で既に支払いの承認を与えているから、収納口座
からの支払は「承認の下に」としている。保管口座からの支払いは、その
都度の承認が必要であり、「承認を得て」支払う必要がある。
第2は、乙の収納口座と甲の保管口座を設ける場合
この場合について、第1みたいに保証契約を締結しという文言はないが、
先に見たように、この場合には当然に保証が必要である(①、四を見れば
明らかである)。
④ 甲の経費の支払いとして、「乙は、甲の収支予算に基づき、甲の経
費を甲の「承認の下」に乙の収納口座から、又は甲の「承認を得て」甲の
保管口座から支払う」とある。この場合には、乙の収納口座名義であるの
で、乙の名義を許した時点で、支払いの承認があるので、「承認の下」に
乙の収納口座から支払うとある。
第3は、保証契約を締結する必要がないときに甲の収納口座と甲の保
管口座を設ける場合
④ 甲の経費の支払いとして、「乙は、甲の収支予算に基づき、甲の経
費を甲の「承認を得て」、甲の収納口座又は甲の保管口座から支払う」と
ある。
この場合には、保証契約を締結する必要がないときとあるので、管理業
者が収納口座の印鑑等を管理していないので、収納口座についても、甲
の「承認を得て」、支払いをしなければならないのである。
第4は、乙の収納・保管口座を設ける場合
この場合には、保証契約は必要でない。
④ 甲の経費の支払いとして、「乙は、甲の収支予算に基づき、甲の経
費を甲の「承認を得て」、甲の収納・保管口座から支払う」とある。この場
合には、印鑑等を管理することはできないから、「承認を得て」支払うこと
になる。
確認事項
① 「保管口座」と「収納・保管口座」からの支払いは、必ず、「承認を得
て」である。
② 管理会社名義の収納口座からの支払いの場合には、「承認の下に」
である。
③ 管理組合名義の収納口座からの支払いは、保証契約を締結してい
るか否かによって(つまり、収納口座の印鑑等を管理業者が管理して
いるか否かによって)、「承認の下に」か「承認を得て」かが決まる。
④ 管理業務主任者試験 平成23年度【問13】参照。
5 乙が管理費等の収納事務を集金代行業者に再委託する場合につい
ては、別表第1の1(2)関係コメントに規定がある。
この場合は、甲の組合員の口座から収納代行業者の口座に振り替え、
収納日の〇営業日後に「集金代行業者の口座から甲の収納口座に収
納し」、④の業務(甲の経費の支払い)を行った後その残額を、保管口
座に移し換えることになっている。つまり、組合員から直接管理組合の
収納口座に振り替えるのではなく、組合員から一旦集金代行業者の口
座に振り替えて、そこから、管理組合の収納口座に収納し、管理組合
の支払いが行われる。
この場合には先に見たように、管理業者が収納口座の印鑑等を管理
しなくても、保証契約は必要である。
そして、管理業者が、甲の収納口座から甲の経費を支払う場合、「承
認の下に」か「承認を得て」かは、管理業者が、甲の収納口座の印鑑等
を管理しているか否か決まるものと思われる。
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