宅建業法上の「法人の役員」の問題
記事投稿日2014年07月10日木曜日
投稿者:一般社団法人エースマンション管理士協会 カテゴリー: General
法人には、会社(株式会社、持分会社(合名会社・合資会社・合同会社))、
社団法人(公益と一般に分かれる)、財団法人(公益と一般に分かれる)、学
校法人、宗教法人、独立行政法人、管理組合法人等多数ある。
宅建業法では、「法人の役員」について規定している条文がある。役員と言
っても、法人によってその名称は様々である。理事・監事・取締役・監査役等
々である。そこで、宅建の試験では、ほとんど会社、特に株式会社についての
出題であるので、ここでは、「株式会社の役員」について見ることにする。
株式会社の役員とは、取締役、会計参与、監査役をいう(会社法329条1項、
会社法施行規則2条3項4号)。取締役は1人以上必要である。取締役には、
代表取締役、取締役(代表権のない平締役)、社外取締役などがある。監査役
は置かなくてもよい会社があり、会計参与を置くことは、原則として任意である。
従来は、株式会社の役員と言えば取締役と監査役だったが、会計参与が加
わった。会計参与は、公認会計士や税理士等でなければならず、取締役など
と共同して、計算書類等を作成する。また、取締役の不正行為等を発見したと
きは、株主等に報告しなければならないとされている。宅建業法上は、会計参
与の取扱いは、監査役と同じように考えればよい。
それでは、以下宅建業法の規定について見ることにする。
第一に、宅建業の免許の申請書に記載すべき事項として、「法人である場
合においては、その役員」(業法4条1項2号)とは、いったい誰のことか。ここ
でいう役員とは、株式会社の場合、取締役のみならず、監査役や会計参与を
置いてあれば、それらの者も含まれ、常勤、非常勤を問わないと解される。ま
た、業者名簿の記載事項である「法人である場合においては、その役員」(業
法8条2項3号)も同じように解される。これらについて、役員について何らの制
限もしていないので、会社法の規定にしたがって、役員を考えればよい。
第二に、免許の基準で、①不正の手段で免許を受けたとき、②業務停止処
分に該当するが、情状が特におもいとき、③業務停止処分に違反したときの3
つの理由で免許を取り消された法人の場合、その法人のみならず、取消しに
係る聴聞の期日及び場所の公示日前60日以内に「当該法人の役員」であっ
た者も、取消しの日から5年間は免許の欠格である(業法5条1項2号)とする
場合の役員とは、誰のことか。
この場合には、条文で、役員として、かっこ書で、業務を執行する社員、取
締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問、その他いかなる
名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役
又はこれに準ずる者と同等以上の支配力を有する者と認められる者を含むと
している。
業務を執行する社員とは、持分会社等において用いられている(会社法591
条等)。
株式会社に限定して考えれば、ここでいう役員とは、取締役と会社法の改正
により追加された「執行役」のことである。会社法の改正に合わせて宅建業法
5条1項2号も改正されたのである。執行役は、委員会設置会社において、取
締役会の意思決定に基づいて業務執行を担当する役員のことをいう。そして、
任期はだいたい1年であり、いつでも、取締役会で解任できる(会社法402条、
403条)。執行役を置いた場合には、これも役員と解されている。
そして、宅建業法5条1項2号でいう役員とは、取締役と執行役のことであり、
「監査役」というだけでは、含まれない。ただし、相談役、顧問、その他いかな
る名称を有する者であるかを問わず、取締役や執行役と同等以上の支配力
を有する者と認められる者を含むとされているから、監査役であっても、会社
の業務を実質的に支配する者であれば、役員となることに注意する必要があ
る。
要するに、「ここでいう役員」は、名称にかかわらず、取締役等と同等以上の
支配力を有する者である。
ここでいう役員の解釈は、「法人の役員」が欠格であれば、法人に免許を与
えないとする規定(業法5条1項7号)、取引主任者の登録の欠格要件である
業法18条1項4号の「法人の役員」、「法人の役員」が不正行為等をした場合
に、法人に業務停止処分を命ずることができるとする規定(業法65条2項7
号)、法人の役員が一定の欠格事由になった場合には、法人の免許を取り
消さなければならないとする規定(業法66条1項2号、3号)において共通で
ある。
なお、法人の合併や廃業の場合に届出をする者は、「代表する役員」とあり
(業法11条1項2号5号)、株式会社の場合には、代表取締役(合併の場合は、
代表取締役であった者)である。
第三に、宅建業者本人・法人の場合はその役員が取引主任者である場合に
は、その者が自ら主として業務に従事する事務所等においては、その者は、そ
の事務所等に置かれる成年者である専任の取引主任者とみなす(業法15条2
項)という場合の「法人の役員」については、この場合にも、条文で、役員として、
かっこ書で、業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をい
うとしている。
株式会社に限定すると、ここでいう役員は、取締役、執行役である。そして、
ここでは、「専任」であるから、事務所等に常勤する者であり、非常勤の者は
含まれない。また、監査役は常勤であっても含まれない。
第四に、「業務に従事する者」とあり、条文には「役員」という言葉を使って
いないが、この業務に従事する者に、法人の役員が含まれるかという問題
がある。
① 事務所に置かれる専任の取引主任者の数は、宅建業者の業務に従事
する者の数に対する取引主任者の数の割合が5分の1以上となる数とす
る(業法15条1項、施行規則6条3)。この規定による「業務に従事する者」
とは、役員、一般管理部門(総務・経理等)、受付・秘書・運転手等の補助
的な業務に従事する者も含まれるが、一時的なパートタイム労働者やアル
バイト等は含まれない。取引主任者の数を決めることになるので、一時的
な者を一々加えると、法的な安定性を欠くからである。
株式会社の場合、「ここでいう役員」とは、常勤の取締役等をいい、非常
勤の取締役等は含まれない。
「監査役」は常勤であっても含まれないと解されている。監査役は、その
役割から取締役、支配人、使用人等を兼ねることができず(会社法335条)、
ここに入れるべきではないからである。第三についても同じ理由である。
他業と兼営する場合については、少し細かくなるが、この際書いておくこと
にする。あくまでも通達等によるものであり、実務の場合には、直接自治体
の担当者に相談してください。
他業と兼業の場合には、受付・秘書・運転手等の補助的な業務に従事する
者は含まれないとされる。また、宅建業を主として営む者については、全体を
統括する一般管理部門(総務・経理等)の職員も従事者に含まれるが、他業
が主であるときは、一般管理部門の職員は従事者に含まれない。
株式会社の取締役の場合、代表取締役は含まれるが、平取締役の場合は、
宅建業のみの担当取締役は含まれるが、そうでないときは、会社が主として
宅建業を営むか否かによって、また、取締役の担当業務の比重によって、そ
れぞれ業務に従事する者に含まれるか否かが決まる。非常に複雑であるの
で、宅建試験では出ないと思われる。
② 業者は、従業者に、従業者証明書を携帯させなければ、その者をその業
務に従事させてはならない(業法48条1項)。また、業者は、その事務所ごと
に、従業者名簿を備えなければならない(業法48条3項)。ここでいう従業者
は、①よりも広く解されており、非常勤の役員、一時的なパートタイム労働者
やアルバイト等も含まれると解されている。
株式会社の場合、「ここでいう役員」とは、常勤・非常勤の取締役等をいい、
ここでも、監査役は含まれない。
- 記事投稿者情報 ≫ 一般社団法人エースマンション管理士協会
- この記事へ ≫ お問い合わせ
- この記事のタグ ≫