宅建・管業 過去のミス問題の検討⑨
記事投稿日2014年05月19日月曜日
投稿者:一般社団法人エースマンション管理士協会 カテゴリー: General
管理業務主任者試験において、「標準管理規約の定めによれば、・・・」
という問題が多く出題される。標準管理規約の問題は重要な問題であり、
その条文やコメントをしっかりと勉強する必要がある。
マンションの管理については建物区分所有法が規定しているが、この法
律だけですべてを規定して処理できるものではない。そこで、区分所有法
自体が30条1項において、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理
又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律の定めるものの
ほか、規約で定めることができる。」と規定している。
規約の中身については、法律(区分所有法や民法等)に違反しない限り、
区分所有者が自由に定めることができるというのが基本である。
①区分所有法で、規約で別段の定めることがでると規定している事項が
多くある。もちろん、このすべてを規約で定める必要はない。
②区分所有法が特に規約で定めることができると規定していなくても、
規約で定めることができるものもある。標準管理規約で定めている、管
理費や修繕積立金に関する規定、あるいは理事会に関する規定などは、
区分所有法には規定されていない。もちろん、この場合、法律に違反し
てはならない。例えば、公序良俗(民法90条)に反する定め(一定の宗
教を信ずる者は入居できないという定め)や、区分所有者以外の占有
者に議決権を与えたりすることはできない(これは区分所有法が区分
所有者に認めた議決権の侵害になるから(区分所有法38条等に違反
する))。
③区分所有法と異なる規約の定めができない事項がある。一番大事
なものは、3/4とか4/5の多数の賛成が必要とされている特別決議
要件である。これを規約で変更することはできない。ただし、唯一の例
外は、共用部分の重大な変更について、「区分所有者の定数」につい
てのみは、区分所有法自体が、規約で過半数まで減ずることができる
としている(区分所有法17条たたし書)。また、規約をもってしても、書
面又は代理人による議決権の行使を全く否定したり(たとえば、代理
人よる議決権の行使は認めるが、書面による議決権の行使は認めな
いというのもだめ)、著しい制限を加えることはできない。これは区分所
有法が区分所有者に認めた権利だからである(区分所有法39条2項)。
以上のように、区分所有法と管理規約の関係は大変複雑であり、区
分所有法等の法律について、かなりの理解がなければ管理規約の作
成はできない。そこで、国土交通省の法律の専門家が「標準管理規約」
を作成しているのである。
そこで注意してほしいのは、標準管理規約は管理に関する標準的な
ものを規定しているのであり、それに規定していない事項については、
管理組合はできないとか、あるいは自由にできるとかいうものではな
い。標準管理規約に定めがなくても、管理組合が総会等の決議ででき
るかどうかは、区分所有法等の法律の解釈で決まるのである。
試験問題を作成するにあたっては、このことをくれぐれも肝に銘じて
ほしい。標準管理規約の定めを問う場合には、明確に「標準管理規約
の定めによれば・・・」ということを明示してほしい。そして、問題の解説
をする人も、その旨を明確に意識してほしい。
平成25年度管理業務主任者試験
【問 37】 次の記述のうち、マンション標準管理規約によれば、「正当
な理由」が必要とされないものはどれか。
1 専有部分の修繕工事に関し、必要な調査を行うため、理事長が修
繕箇所への立入りを請求しが、その専有部分の区分所有者がこれ
を拒否する場合。
2 階段室をエレベーター室に改造することが専有部分の使用に特別
の影響を及ぼす場合に、その専有部分の区分所有者が承諾を拒否
するとき。
3 管理組合がバルコニーの防水工事を行うため、区分所有者の住戸
に接続するバルコニーへの立入りを請求したが、その区分所有者が
これを拒否する場合。
4 組合員からの総会議事録の閲覧請求及び閲覧の日時、場所等の
申出が不相当な場合に、理事長がこれを拒否するとき。
〇1 正当な理由が必要。専有部分の修繕工事に関し、必要な調査
を行うため、理事長が修繕箇所への立入りを請求したが、その専
有部分の区分所有者がこれを拒否する場合には、正当な理由が
必要である(標準管理規約17条5項)。
〇2 正当な理由が必要。階段室をエレベーター室に改造することは、
敷地及び共用部分等の変(その形状又は効用の著しい変更を伴
わないものを除く。)に該当し(標準管理規約47条3項2号)、特別
決議が必要である。この特別決議において、専有部分の使用に
特別の影響を及ぼす場合には、その専有部分の区分所有者の承
諾が必要であるが、承諾を拒否するときは正当な理由が必要であ
る(同7項)。
〇3 正当な理由が必要。敷地及び共用部分等の管理や共用部分で
ある窓ガラス等の改良の管理を行う者(通常管理組合である)は、
管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専
有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる(標
準管理規約23条1項)。この立入りを請求された者は、正当な理
由がなければこれを拒否してはならない(同2項)。よって、管理組
合がバルコニーの防水工事を行うため、区分所有者の住戸に接
続するバルコニーへの立入りを請求した場合に、その区分所有
者がこれを拒否する場合には、正当な理由が必要である。
×4 明文で正当な理由は必要とされていない。理事長は、議事録を
保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、
議事録の閲覧をさせなければならない。この場合において、閲覧
につき、相当の日時、場所等を指定することができる(標準管理規
約49条3項、電磁的方法が利用可能であれば、別個に49条5項
に規定されている)。
区分所有法では、議事録を保管する者は、利害関係人の請求が
あったときは、「正当な理由がある場合を除いて」、議事録の閲覧
を拒んではならないと規定されている(区分所有法42条5項、33
条2項)。ということは、正当理由があれば閲覧を拒否できるという
ことである。標準管理規約49条3項は、閲覧を拒否できる場合に
ついて規定していないが、「正当理由」があるのに、拒否できない
というものではない。そして、理事長が「閲覧につき、相当の日時、
場所等を指定することができる。」と規定しているのは、それが、
不相当であれば拒否できる「正当理由」になるということを示して
いる。これは、拒否する正当な理由の一つの事例であり、それ以
外に「閲覧請求権の濫用」(たとえば、いやがらせのために、何回
も閲覧を請求する場合等)となるような場合にも、拒否できる。
つまり、区分所有法に「正当な理由がある場合を除いて、議事
録の閲覧を拒んではならない。」とあるので、標準管理規約では、
「正当理由」について明文を置かず、日時等の指定ができる旨の
規定を置き、その一例を規定しているのである。
設問は、組合員からの総会議事録の閲覧請求及び閲覧の日
時、場所等の申出が「不相当な場合」とあるから、閲覧を拒否で
きる正当理由があるので、理事長はこれを拒否できる。
肢1、2、3の場合には、区分所有法に明文の規定がないので、
管理規約で「正当理由」がある場合に拒否できると規定している
のである。もちろん、これらについても、たとえ明文がなくても、正
当理由が必要と解釈できるが、はっきりさせるために、明文化し
たのである。
この肢4を正解とするためには、「明文で」正当な理由が必要と
規定されていないものはどれか、と聞いているものとして答えるし
かない。
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