宅建・管業 過去のミス問題の検討⑦
記事投稿日2014年05月14日水曜日
投稿者:一般社団法人エースマンション管理士協会 カテゴリー: General
宅建主任者試験や管理業務主任者試験において、最近はミス問題を公表して
いる。人間誰でもミスはある。正誤に関係するミスが判ればこれについて公表す
るのは当然のことである。
ところが、正誤には特に関係しないが、肢を検討すると、宅建試験の問題につ
いて今まで見てきたようにミス問題がたまにある。ミスであることは公表されてい
ないが、今後の出題者はこのことをしっかりと把握した上で、過去の問題を参考
にしてほしい。
これから、管理業務主任者試験の最近のミス問題に限定して見ることにする。
古い法律については、判例や通説が確定しているが、標準管理規約の解釈に
ついては、まだ判例も少なく、通説というほどのものが確立されていないものも
多い。また、標準管理規約全体について体系的に解釈をしているテキストも少
ない。規約と区分所有法との関係についてもしっかりと把握する必要がある。
このようなことから標準管理規約の問題についてミス問題が多くみられる。
平成25年度管理業務主任者試験
【問 13】 管理組合の会計及び承認に関する次の記述のうち、マンション標準
管理規約及びマンション標準管理規約コメント(単棟型)(平成16年1月23日国
総動第232号・国住マ第37号、国土交通省総合政策局長・同住宅局長通知。以
下「マンション標準管理規約」という。)の定めによれば、不適切なものはいくつあ
るか。
ア 管理組合は、建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査を行う
ため、必要な範囲内において借入れをすることができる。
イ 駐車場使用料等の使用料は、それらの管理に要する費用に充てるほか、修
繕積立金として積み立てることも可能である。
ウ 収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度の管
理費に充当することも繕積立金に充当することも可能である。
エ 管理組合は、管理費等に不足が生じた場合には、総会の決議により、その
都度必要な金額の負担を組合員に求めることができる。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
〇ア 適切。建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査を行うため
の費用は、修繕積立金から取り崩すことになっている(標準管理規約28条1
項4号)。そして、管理組合は、第28条第1項に定める業務(修繕積立金から
取り崩すことができる業務)を行うため必要な範囲内において借入れをする
ことができる(標準管理規約63条)。ちなみに、この借入金については、修繕
積立金をもってその償還に充てることができることになっている(標準管理規
約28条3項)。なお、この借入れ及び修繕積立金の取崩しについては、総会
の決議が必要とされている(標準管理規約48条6号)。
標準管理規約では、通常の管理に要する経費(管理費)に充てるための借
り入れは規定されていないことに注意。
〇イ 適切。駐車場使用料その他の敷地及び共用部分等に係る使用料は、それ
らの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てるとされて
いる(標準管理規約29条)。
×ウ 不適切。収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌
年度における管理費に充当することになっている(標準管理規約61条1項)。
繕積立金に充当することはできない。
〇エ 適切。管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25
条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求
めることができる(標準管理規約61条2項)。管理規約で定めているので、一々
総会の決議は必要でない。不足額の負担を確認的に総会の決議にかけても、
あえて不当ともいえないが、それはあくまで確認的なものである。そういう意味
であえて不適切とは言えないというだけのものである。
以上より、不適切なものは、ウの一つであり、1が正解。
エについて、平成24年度の【問13】の肢1でも同じような問題が出題されている。
それから、平成19年度の【問12】では、「理事会の決議を得なければならない」と
いう問題となっている。この19年度の問題では、これは誤りの肢として、正解の肢
になっている。これはどこが誤っているかというと、理事会の決議を経る必要がな
いということである。つまり、管理者(理事長)は、総会や理事会の決議を経ること
なく、不足金の請求ができるということを規定しているのである。ところが、一部の
解説に「理事会の決議ではなく、総会の決議が必要」として、誤りとしているものが
ある。平成24年と25年の出題者はこれに引きづられ、管理費等に不足を生じた
ときに、組合員に負担を求める場合には、総会の決議が必要だと誤解しているの
ではないかと思われる。平成19年度の出題者も、同じような誤解をしているのか
も知れない。
そうすると、「管理組合は、管理費等に不足が生じた場合に、総会の決議がな
ければ、その都度必要な金額の負担を組合員に求めることができない。」という
肢でも、適切と考えているのではないか。
しかし、これは明らかに誤りである。標準管理規約61条2項の「管理費等に不
足が生じた場合には」というのは、管理費や修繕積立金から支払うべき金銭が
現実に不足した場合についての規定である。つまり、管理組合が第三者に負担
する債務である。これについては、区分所有者全員が負担割合に応じて債務を
負うのであり(区分所有法29条1項、53条1項)、その都度必要な負担額を支払
う義務がある。組合に対する債権者(管理会社や大規模修繕をした会社など)は、
その不足額について、各組合員に対して、その負担割合で、支払いの請求や強
制執行ができる。しかし、それは大変面倒なことだから、組合(理事長)が責任を
もって各組合員から徴収すると規約で定めているのである。
管理費等の不足額については、総会の決議がなくても、各組合員が責任を負
う。ただ、この規約の定めがなければ、債権者は、総会で規約の定めと同じ決
議がなされない限り、個別に各組合員に請求することになる。そこで、規約であ
らかじめ定めておけば、組合と取引する相手方は安心して取引ができるという
ことになるのである。この規約の趣旨はこの点にあると解すべきである。
中には、管理費等の額並びに賦課徴収方法については、標準管理規約第48
条3号で総会の議決事項だから、不足額の徴収についても総会の決議が必要
だと考えている人がいるようだ。
確かに、管理費・修繕積立金をいくらにするか、その徴収方法(銀行振込みと
か、引き落しとか)はどうするかということは、総会の決議事項である。しかし、
管理費等の不足額というのは、管理組合が第三者に負担する債務である。管
理費等と明確に区別しなければならない。その債務にあてるために負担額を求
めることは、管理費等の徴収ではない。
例えば、大規模修繕等が控えていて、現在の修繕積立金では足りないという
ような場合には、その対策として、以下の三つの方法が考えられる。①増額す
る。②一時金を徴収する。この場合には、正に管理費等の徴収の問題として、
いずれも、総会の決議が必要である(標準管理規約48条3号)。さらに、③借入
れをすることもできる(標準管理規約63条)。そして、この場合にも総会の決議
が必要である(標準管理規約48条6号)。これらは、修繕の規模や金額等につ
いて、その都度の総会において組合員の意思を問う必要がある。現実に管理
費等が不足した場合の「管理費等の不足額の徴収」と明確に区別して考えなけ
ればならない。
繰り返しになるが、「不足額の徴収」に関する規定がなければ、組合(理事)
が各組合員から不足額の徴収をするためには、その都度総会の決議が必要
である。しかし、不足額は、各組合員が既に負担する債務であり、その額も確
定しているので、あらかじめ、規約に定めておくことによって、一々の総会の決
議をしなくても、理事が徴収できるようにしているのである。
管理費がこのままでは不足しそうだという場合にも、基本的には、修繕積立
金と同じである。①と②は、標準管理規約48条3号で、修繕積立金と同じ規定
がある。しかし、③の借入れについては、修繕積立金と異なり、標準管理規約
には規定がない(標準管理規約63条参照)。そこで、管理費に当てるためには、
借入れができないとか、あるいは、総会の決議がなくても、理事が借入れでき
るという意見がある。
この点について、平成21年度の【問13】は「標準管理規約の定めによれば、」
最も適切なものはどれか。としてその肢1で「管理組合は、通常の管理に要す
る経費に不足を生じた場合、総会の承認により、借入れをすることができる。」
と いう問題が出題されている。
この問題について、既に、アの問題の解説をしている。そこでも解説している
ように、「通常の管理費」に当てるための借入れについては、標準管理規約に
は規定がない。だから、問題に対する答えは、適切でないということになる。
それでは、管理組合は、通常の管理費の不足に備えて、あるいは、現実に
管理費が不足した場合、借入れができないか。
標準管理規約は、修繕積立金から取り崩すことができる業務を行うため必
要な範囲内において借入れができると規定しているのに(標準管理規約63
条)、管理費から充当すべき費用についての借入れについて規定していない
のは何故か。
修繕積立金を住宅金融支援機構や銀行から融資を受ける条件として、規
約が整備されていなければならいことになっているので、標準管理規約でも
これらについて、規定しているのである。
ところが、通常の管理費については、融資を受けるということは、通常考え
られない。管理組合が管理費に充当するために借入れをするということは、
組合の管理がいい加減だということである。それを規約で定めておくという
ことは、自らいい加減な管理をしているということを規約で宣言しているよう
なものである。また、まともな金融機関は、そのような融資をしない。だから、
標準管理規約に定めをしていないのである。
しかし、管理組合によっては、管理費に充当するためにどうしても借入れ
をせざるを得ない場合もあるかも知れない。増額の決議ができないとか、
一時金の徴収ができない場合に、どうしても借入れをしなければならず、
かつ、貸す人がいる場合、管理組合の業務として、借入れはできる。この
借入れは総会の普通決議でできると解される(区分所有法18条)。この
点は、修繕積立金のための借入れと同じである。標準管理規約63条は、
修繕積立金に関する借入れについて、区分所有法18条を受けた規定で
ある。ただ、管理費に関しては、規約に定めを置いていないということで
ある。
だから、規約に定めがないから、借入れができないとか、総会の決議な
くして借入れできるというものではない。
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