管理組合が管理業者(以下、管理業者はほとんど会社組織にしているので、管理
会社ともいう)に出納業務を委託する場合、現行の標準管理委託契約書は、①原則
方式、②支払一任代行方式、③収納代行方式を定めている。現行の方式の一番の問
題点は、「保管口座」の印鑑を管理会社が保管できることと、支払一任代行方式の
場合、「収納口座」に管理費の残額が積み上がるということである。

 適正化法の施行規則を改正して、来年の5月から新方式によることになった。別
に来年の5月を待たなくても、これから新しく管理委託契約をする場合、又は管理
委託契約を更新する場合に、新方式によることができる。

新方式は、以下に分類される。
イ方式  修繕積立金と管理費(以下修繕積立金等という)を「収納口座」に預
 入し、その月分の管理費用を控除した残額を翌月までに「保管口座」に移し換
 え、「保管口座」で預貯金として管理する方式。
※ 「収納口座」の名義は、管理組合(理事長名義等を含む。以下同じ)でも管理
 業者でもよい。「保管口座」の名義は管理組合である。
※ 「収納口座」の名義が管理組合名義でも、管理業者が通帳と印鑑(キャッシ
 ュカード等を含む。以下同じ)を同時に保管できる。
※ 「保管口座」の印鑑を管理会社が保管することは禁止(例外は、管理者が選任
 されるまでの短い期間。以下同じ)。

ロ方式  修繕積立金は直接「保管口座」に預入し、預貯金として管理され、管
 理費は一旦「収納口座」に預入し、その月分の管理費用を控除した残額を翌月
 までに「保管口座」に移し換え、「保管口座」で預貯金として管理する方式。
※ 「収納口座」の名義は、管理組合でも管理業者でもよい。「保管口座」の名
 義は管理組合である。
※ 「収納口座」の名義が管理組合名義でも、管理業者が通帳と印鑑を同時に保
 管できる。
※ 「保管口座」の印鑑を管理会社が保管することは禁止

ハ方式  修繕積立金等を「収納・保管口座」に預入し、その「収納・保管口座」
 で預貯金として管理する。管理費もこの口座から拠出する方式。
※ 「収納・保管口座」の名義は管理組合である。
※ 「収納・保管口座」の印鑑を管理会社が保管することは禁止

 上に見たように、改正法は、現行の一番の問題点だった「保管口座」の印鑑を管
理会社が保管することを禁止し、「収納口座」に管理費の残額が積み上がることを
防止した。改正のきっかけとなったのは、多額の金銭が預貯金される保管口座(一
任支払代行の場合には収納口座も)の印鑑を管理会社が保管したため、横領事件が
多発したからだ。

 ただし、保管口座の印鑑を管理組合が保管していても、管理会社が理事長をだま
して印鑑を押させて横領したという事例もあるので、この点は理事長がしっかりし
なければならない。

今回の改正では、管理会社の保証についても明確にした。
 上のイ、ロの方式の場合、管理会社は保証契約をしなければならない(多くは高
層住宅管理業協会と保証契約をしている)。ただし、①修繕積立金が管理組合名義
の「収納口座」に直接預入される場合又は管理業者(集金の委託を受けた業者を含
む)が修繕積立金等を徴収しない場合で、かつ、②管理業者が管理組合を名義人と
する「収納口座」の印鑑を管理しない場合には、保証の必要はない。

 つまり、管理組合名義の「収納口座」の印鑑を管理会社が管理する場合には、保
証が必要である。また、管理会社名義の収納口座を設けた場合も保証が必要である。
 管理組合名義の「収納口座」の印鑑を管理会社が管理しなくても、管理会社が集
金会社に委託して修繕積立金等を徴収する場合にも、保証が必要である。

保証の意味について
 保証の額はイ方式の場合には、管理費と修繕積立金の1ヶ月分以上の額である。
ロ方式の場合には、管理費の1ヶ月分以上の額である。
 この場合の保証は管理会社が破産しても、管理会社が「収納口座」の印鑑を保管
しているため、管理組合のお金である「収納口座」の預金を取り戻せないことがあ
るからだ。

 この保証は、管理会社が横領等の不正行為をした場合の担保ではないことに注意
してほしい。
 なぜなら、管理会社が数億円の不正を行った後に破産しても、1ヶ月分の保証で
あるし、管理会社が不正行為をせずに破産した場合でも、1ヶ月分が保証されるか
らだ。また、管理会社又は管理会社の社員が数億円の横領をしても、会社が破産せ
ず、会社が横領額を支払えば保証は実行されないのだ。

 今回の改正は保証額が明確でなかったので、「1ヶ月以上」と明確にした。

 今回の改正の最も重要な点である不正行為の防止の措置は、「保管口座」の印鑑
の管理を管理会社にさせないこと、それに「収納口座」に残額が積み上がらないよ
うにしたことである。現に今までの不正行為は全て「保管口座」の預貯金を横領す
るという事例である。

 今回の改正の趣旨が管理会社の不正の防止だから、「収納口座」の印鑑も管理組
合が保管すべきであるなどとの主張を聞くことがあるが、改正の趣旨を全く誤解し
た見解である。法自体が「保管口座」と異なり、「収納口座」の印鑑の保管を管理
会社に認めているのだ。管理会社に「収納口座」の印鑑を管理させるべきかどうか
は、不正行為の防止とは関係なく、管理組合の実情を考慮して決めるべきことであ
る。

 ちなみに、現在、原則方式が約3割、支払一任代行方式が約5割、収納代行方式
が約2割の割合で行われているようだ。つまり、7割以上の管理組合が「収納口座」
の印鑑を管理会社に保管させている。今回の改正はむしろこの現実を前提に「収納
口座」を取り扱っているのだ。支払の迅速で円滑な業務を無視できないのである。

 ただ、「収納口座」の印鑑を管理会社に保管させた場合には、管理組合の理事は、
法の定める適正な運用がなされているかどうかを常に監視する義務がある。そのこ
とは従来から変わらない。
 管理会社が法に違反し収納口座に数ヶ月分の修繕積立金等を残したまま破産した
場合でも、管理組合がそれを取り戻すことができないときは、1ヶ月分しか保証さ
れないことは先に述べた通りだからである。

 今回の改正で、毎月末日までに、管理会社は、管理組合にその収支状況に関する
書面の交付をしなければならいことになった。

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