管理会社の意向や推薦を受けて、その管理会社が管理している管理組合の顧問
になるマンション管理士がいると聞く。

 民法では、自己契約(契約の相手方の代理人となること)や双方代理(契約の
当事者双方の代理人となること)は、原則として禁止される。それは、本人の利
益を守るためである。これを「利益相反行為の禁止」という。
 ただし、本人が承諾すれば、禁止されない。不利益を受けるかも知れない本人
が承諾する以上、これを禁止する必要がないからだ。

 会社法でも、会社と取締役との利益相反行為を規制している。取締役は、会社
と競合する取引をしようとする場合、又は、取締役が、自己のため又は他人の代
理人・代表者として会社と取引する場合も、その取引について重要な事実を開示
して取締約会の事前の承認を得なければならない。これは、会社の利益を守るた
めである。

 マンション管理士は、管理組合の運営等マンションの管理に関し、管理組合の
理事や組合員の相談に応じ、助言・指導・援助を行うことを業務とする。その業
務を行うために、管理組合と委任(又は準委任)契約(顧問契約)を締結する。
 訴訟行為や登記又は業務の許可申請のように、弁護士、司法書士又は行政書士
等しか行えないような行為はできないが、他の法律によって制限されない事項に
ついては、管理組合の代理行為をすることもできる。

 このように、マンション管理士が代理行為をするときは、当然に民法の利益相
反行為の禁止が適用される。代理行為ではない行為については、一応その適用は
ないといえる。

 そこで、マンション管理士が、マンション管理会社の意向を受けて、その会社
の管理しているマンション管理組合と顧問契約をして、その業務を行う場合、利
益相反行為の禁止はどうなっているのか。

 対マンション管理会社との関係で見ると、代理行為でなければもちろん、管理
士が代理行為をする場合でも、管理会社の代理人でない限り、法的に利益相反行
為ではない。

 しかし、マンション管理の適正化の推進に関する法律40条は、信用失墜行為の
禁止を規定している。マンション管理士が管理業者の利益になるよう誘導する行
為等はこれに該当するものと思われる。これに違反した場合、罰則の適用はない
が、登録の取消処分は受ける。

 このように、マンション管理士が管理会社の意向を受けたり、推薦を受けて管
理組合と顧問契約等をしても、利益相反行為ではなく、利益誘導がない限り、直
ちに法律に違反するものではない。

 しかし、前にも、マンション管理士と管理会社との関係でも見たように、マン
ションの管理組合とマンション管理会社は、利益の相反する契約関係にあり、マ
ンション管理士は、その一方の当事者である管理組合との契約で、管理組合の利
益を守るものである。

 そういう立場にある者が、他方の管理会社の意向や推薦を受けて、果たして、
管理組合の利益のために働けるのか。要請や推薦した管理会社に対して真剣に物
が言えるか。
 管理会社の利益を図るよう動くのが人情ではないのか。いや公平な立場で職務
を行っていると胸を張って言えるか。八百長という批判に耐えられるか。

 管理組合と管理会社は、常に全てにおいて利益が相反するものではないから、
管理会社の意向を受けても問題がないという見解もある。確かにマンションのよ
り良い管理について共同で歩調を合わせて進まなければならないという面も多い。
しかし、その管理行為に対して、その対価が適切であるか、費用に見合う管理を
行っているかという最も重要な点で相対立するものであり、なあなあで済ませる
ことはできない。

 管理会社の意向や推薦があっても、管理組合(その理事)が納得しているのだ
から、かまわないのではないかという見解もあろう。
 正にそのことが一番の問題だ。今まで理事会も総会も牛耳ってきた管理会社が、
管理組合がマンション管理士を自分たちで見つけてきたら、それができなくなる。
それは大変だということで、管理会社にとって都合の良い管理士を推薦するとい
うことだ。

 そもそも、このような管理組合は、自分たちの利益を正当に守るという能力に
欠けるものである。それは管理会社に牛耳られていたからだ。その能力の欠ける
管理組合が納得しているからかまわないというということは、その実態から目を
そらすもので正当な見解ではない。これでは何時までたっても、管理組合は管理
会社の意のままだ。

 マンション管理士は、大いに稼いでも良いと思う。ただし、マンション管理士
の制度の趣旨や職業倫理を肝に銘じて、胸を張って仕事をしたいものだ。
 管理会社の意向や推薦を受けたとしても、管理組合にも十分管理士の使命を説
明し、管理組合の自立を促し、管理会社に対しても、管理士の使命に従って、堂
々と言うべきことを言わなければ、その先はないものと思う。

 ※エースマンション管理士ホームページhttp://acemansyonkanri.law.officelive.com/