8 通謀虚偽表示と登記
 ① 通謀虚偽表示とは、契約の当事者ABが、通謀して真意と異なる意
  表示(虚偽の意思表示)をすることである(Aが債権者の差押えを
免れる
  ため、財産(土地・建物等)をBに売却したように財産を隠す
目的で売買
  契約を装う場合が典型例である)。
   通謀虚偽表示は、当事者間に契約を締結する意思が欠けているので
  あるから、無効とされている(民法941)。したがって、Aの債権者は、
  当該土地をAのものとして差し押さえることができる。
   この無効は、善意の第三者に対抗できない(民法942)。つまり、
  ABの当事者間では売買契約は無効であり、何らの効果も生じないが、
  AB間の事情を知らずに(善意)、CがBより当該土地を買受けたり、
  借したり、抵当権を設定したり、差押えをしたりした場合に、Aは、
Cに
  Bとの契約の無効を主張して、当該土地の所有権を主張して返還せよ
  とか、賃借権や抵当権は無効だとか、差押さえは無効だとか言えない
  ということであ
る。つまり、AB間が有効な契約であると信じてBと取引
  をしたCを保護しようとするものである。虚偽表示をした者より、善意の
  第三者を保護する必要があるから
である。したがって、この場合には、
  Aの債権者も、善意の第三者に
対しては差押えはできなくなる。第三
  者は善意であればよく、過失の有無を問わない。また、第三者
は登記
  をしていなくてもよい(
判例)

   また、善意の第三者Cからさらに譲り受けた者D(転得者)が悪意

  あっても、AはDに対しても対抗できない。一度善意者が介在する
と、
  以後はその地位を承継するからである。
   直接の第三者Cが悪意でも、転得者Dが善意であれば、AはDには
  対抗できない。

   Aが善意の第三者C・Dに対抗できないときでも、Aは、Bに対しては
  無効の主張ができ、Bの責任を追及できる。

   心裡留保が例外的に無効とされる場合に(民法93条ただし書)94
  条2項を類推適用して、善意の第三者に対抗できないと解されている。

判例⇒ 通謀虚偽表示とは言えないが、Aが建物を新築したが、Bに無
    断でB名義の所有権保存登記をしていたところ、Bが勝手に自己
    の所有物としてCに売却した場合、Cが善意であれば、通謀虚偽
    表示の規定(民法942)を類推適用して、Aは、Cに当該建
    の所有権を対抗できないとした判例がある。
     AB間には通謀や虚偽の売買もないが、虚偽の外形を作ったA
    よりも、これを信頼したCを保護すべきだからである。

判例⇒ Aの所有地をBが勝手に自己名義の登記をしているのをAが
    知
ったが、すぐに登記を回復することなく放置していたところ、善
    意のCがBから当該土地を買受けた場合、民法942項を類推
    適用して、Aは、Cに当該土地の所有権を対抗できないとした判
    例がある。
     この事例では、Aが積極的に虚偽の事実を作り上げているわ
    け
ではないが、自分の土地について登記が第三者名義になって
    いる
ことを知りながらこれを放置することは、自ら虚偽の事実を
    作り
上げていることと変わりがないと判断されたのである。

 以上と異なり、A所有土地・建物について、Bが勝手に自己の所有物
として登記をして、Aが知らない間に、BがCに売却した場合、Cが善
であっても、Aは当該土地・建物の所有権をCに対抗できる。この場
合、
Aに何らの帰責事由がないからである。不動産については単に登記

信頼しただけでCが保護されるものではないことに注意すること。
 ちなみに、動産については、相手方の占有を信頼して取引に入った
合、動産の所有権を取得できるとする、即時取得(善意取得)の制度
あるが(民法192)この点については、最初の方でみたように、
不動産の登記については、
公信力がなく、動産の占有については公信
力が認められているとして述
べている。

 ② AB間のA所有土地の売買契約が通謀虚偽表示である場合、C
   が
善意でBから当該土地を買受けたときは、Cが善意であれば、C
   は
登記をしなくても、Aに所有権を対抗できると言ったが、Cは、A
   から当該土地を買受けたDに対しては、登記をしなければ対抗で
   き
ない(判例)ことに注意すること。もちろん、Dも登記をしなければ、
   善意のCには対抗できない。つまり、この場合、A所有土地がA→
   B→Cと譲渡され(AB間の無効を善意のCに対抗できないという
   ことは、Cからみれば、AB間は有効となるという意味である。)、
   さらにA→Dに二重に譲渡された場合と同様に考えて、CとDは対
   抗関係に立つと見るのである(民法177)平成12年度【問4】
   肢
4。