2015年 2月の記事一覧
1 強制執行・先取特権の実行
管理費等の滞納があった場合、支払訴訟を提起して勝訴判決を
得て、それに基づいて滞納者の専有部分等を強制執行(強制競売)
することができる。また、区分所有法第7条に基づく先取特権の実
行としての競売(任意競売)することができる。そして、その競売代
金から滞納管理費等の回収を図るのである。
しかし、当該マンション(専有部分)に抵当権が設定されていて、
抵当権付債権の金額がマンションの時価額を上まわるときは、裁
判所は競売を認めない。競売代金は先に抵当権者に支払われる
ので、このような競売を認める意味がないからである。
2 区分所有法59条による競売請求
(1) 先にも見たが、①区分所有者が、建物の保存に有害な行為
その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に
反する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合に
おいて、②その行為による区分所有者の共同生活上の障害が
著しく、③他の方法(差止請求、使用禁止請求その他)によって
はその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所
有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区
分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、
訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び
敷地利用権の競売を請求することができる(区分所有法59条
1項)。
(2) この競売請求は、先に見た判決に基づく強制競売や先取特
権に基づく競売と違って、マンションに対する抵当権付債権の金
額が時価額を上回る場合でも、競売手続が行われる。その結果、
確実に特定承継人たる買受人が現れるので、その者から滞納管
理費等回収できるわけである(区分所有法8条)。
(3) 区分所有法59条による競売請求が認められる要件
① 長期間の管理費等の滞納は、区分所有法第6条第1項にい
う、区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するものとし
ている下級審の判例がある(東京高裁平成18・11・1、東京地
裁平成18・6・27、東京地裁平成24・9・5等)
具体的には、マンションの規模等によって、「共同利益に反す
る」滞納期間かどうかが判断されると思われる。
② 「共同利益に反する」ものと認定されても、その行為による区
分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法(差止請求、
使用禁止請求その他)によってはその障害を除去して共用部
分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図
ることが困難であるときでなければならない。
③ ①の要件は認めるが、②の要件に該当しないとして、競売を
認めないのが、東京高裁平成18・11・1、東京地裁平成18・6・
27の判決であり、②の要件も認めて競売を認めたのが、東京
地裁平成24・9・5の判決(リゾートマンションに関するもの)で
ある。
競売を否定した、東京地裁平成18・6・27の判決は、「区分所
有法59条が行為者の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から
終局的に排除するものであることからすれば、上記要件に該当
するか否かについては厳格に解すべきであり、滞納した管理費
等の回収は、本来は同法7条の先取特権の行使によるべきであ
って、同法59条1項の上記要件を満たすためには、同法7条に
おける先取特権の実行やその他被告の財産に対する強制執行
によっても滞納管理費等の回収を図ることができず、もはや同条
の競売による以外に回収の途がないことが明らかな場合に限る
ものと解するのが相当である。」として、本件は、未だその要件を
満たしているとは言えないとしている。
②の要件については、滞納額や他に回収の方法を尽くしたか
どうかとか、かなり細かな事実の認定を行っている。ケースバイ
ケースで判断するしかない。
マンション管理士の仕事として管理規約の改正業務というものがある。
この管理規約についての知識は、建物区分所有法の知識が不可欠で
ある。これなくして管理規約の改正業務などできるはずがない。いい加
減な管理規約の改正を行い、後で問題にならにいようにしなければなら
ない。この点で標準管理規約があり、これを参考にして改正業務を行う
べきである。古いマンションでは原始規約が不完全なものが多く、現在
に通用する管理規約の改正が急がれる。
1 原始規約とは、特定のマンションについて、最初に作成された規約の
ことである。
建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所
有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めること
ができるとされる(区分所有法30条1項)。
規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設
(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、
面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った
対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が
図られるように定めなければならない(同3項)。
また、規約は、区分所有者以外の者の権利を害することができない(同
4項)。
規約は、書面又は電磁的記録により、これを作成しなければならない(同
5項)。
2 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以
上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、
変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきと
きは、その承諾を得なければならない(区分所有法31条1項)。
だから、原始規約の設定についても、当然にこの規定が適用されるので
ある。
3 そして、この法律又は規約により集会において決議をすべき場合におい
て、区分所有者「全員の承諾」があるときは、書面又は電磁的方法による
決議をすることができる(集会を省略できるわけである)。ただし、電磁的
方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定め
るところによらなければならない(区分所有法45条1項)。
この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項に
ついては、区分所有者「全員の書面又は電磁的方法による合意」があつ
たときは(集会及び決議の省略の省略である)、書面又は電磁的方法に
よる決議があつたものとみなすとされる(同2項)。
そこで、多くの分譲マンションにおいては、この規定を根拠にして、マン
ション売買契約時に分譲業者が管理規約(案)を作成し、各専有部分の
分譲ごとに購入者の書面による承認を取り付け、全区分所有者の合意
書面がそろえば、それをもって規約が成立したものとしている実務慣行
がある(承認販売方式と呼ばれている)。規約の成立はどの時点かとい
う問題はあるが、規約の成立自体は適法に成立している。この場合、未
分譲の専有部分があり、それを分譲業者がさしあたり所有し続けている
ときでも、規約は有効に成立しているから、分譲業者も、別段の特約が
ない限り、その所有する未分譲の専有部分について、区分所有者として、
規約の定めに基づく管理費等の支払義務を負う。
標準管理規約72条1項は、この規約を証するため、区分所有者全員が
書面に記名押印(又は電磁的記録に電子署名)した規約一通を作成し、
これを規約原本とするとして、この方式により設定された原始規約を規
約原本とする旨定められている。
規約が規約原本の内容から総会決議により変更されているときは、理
事長は、1通の書面(又は電磁的記録。以下電磁的記録については省略
する。)に、現に有効な規約の内容と、その内容が規約原本及び規約変
更を決議した総会の議事録の内容と相違ないことを記載し、署名押印し
た上で、この書面を保管する(標準管理規約72条3項)とある。
この改正された規約には区分所有者全員の記名押印は必要でない。
4 マンション購入者への建物引渡し後、集会を開催して(集会は、区分
所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことがで
きる(区分所有法36条)。)、分譲業者等が作成した管理規約(案)につ
いて、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数の決議を得て規
約の設定をすることもできる。これも、原始規約と呼ばれる。
5 公正証書による規約の設定
最初に建物の専有部分の全部を所有する者は、公正証書により、①
規約共用部分の定め、②規約敷地の定め、③専有部分と敷地利用権
の分離処分を許す定め、④各専有部分に係る敷地利用権の割合に関
する定めの4つについて、規約を設定することができる(区分所有法32
条)。規約は、本来的に複数の区分所有者による区分所有関係がある
場合に、その相互間の事項を定めるのであるから、分譲業者が分譲前
に単独で規約を設定することは、原則として許されない。先に見た原始
規約も、分譲業者は、規約の案を提示しているのであり、規約自体は区
分所有者が設定しているのである。
しかし、上の4つの事項については、分譲前にその定めの有無・内容
が確定している方が、買受人たる区分所有者にとっても望ましい。また、
建物内の管理人室や集会所、建物外にある集会所・管理人事務所・倉
庫等の附属建物などを共用部分とする規約を定めて、分譲開始前に、
建物の表題登記とあわせて登記をして置くことが便利である(規約共用
部分は、その旨を登記しなければ、第三者に対抗できないとされている。)。
そして、この規約は、公正証書が適法に作成された時点で成立する。
この規約も、分譲後は区分所有者の団体の規約となるから、その変更・
廃止は、通常の規約の改廃手続きによる(区分所有法31条1項)。