2014年 6月の記事一覧
専任の取引主任者の数の問題
模擬試験の問題やテキストなどで、「業務に従事する者の数が本店21名、
支店12名、取引を行う一定の案内所に6名の場合は、本店に5名、支店に
3名、案内所に1名以上の専任の取引主任者を設置しなければならない。」
としている。
これ自体は全くその通りで正解である。それでは、この業者の業務に従事
する者の数は全員で何人いるのかというと、21名+12名+6名=39名と
考えているようだ。つまり、案内所の6名について、「本店又は支店に従事す
る者ではなく、一定の案内所に従事するものと考えられる。」というのである。
本店にも支店にも所属しない案内所があるというのである。
しかし、本店や支店(事務所)から独立した案内所等というものはありえな
い。なぜなら、従業者名簿は事務所ごとに備えるということになっているが、
案内所等の業務に従事する者については、その者の所属する事務所(本店
又は支店)に従業者名簿が置かれているからだ。事務所の専任の取引主任
者の数を計算する場合、その事務所に所属する案内所の従業員も計算に入
れなければならない。もし、本店にも支店にも所属しない案内所等があると
したら、そこの従業者の名簿はどこに備えることになるのか。
だから、ここでいう案内所は、本店か支店の事務所に所属すること及びそ
の6人は、所属する本店か支店から出向(派遣)している者として考えるべ
きだ。問題文にもその旨を明らかにしなければ誤解を生じるおそれがある。
つまり、支店(又は本店)には、取引を行う一定の案内所があり、支店から
6名が出向(派遣)しているということを明確にすべきである。そうすると、こ
の業者の従業員は、21名+12名(案内所の6名を含む)=33名というこ
とになるはずである。そのうえで、冒頭に掲げたように、本店に5名、支店に
3名、案内所に1名以上の専任の取引主任者が必要ということになる。
以下に簡単な例で説明すると、一つの事務所に業務に従事する者が12
名いる宅建業者がいるとする。専任の取引主任者は、最低3名必要である。
ところが、この業者が取引をする案内所を設けて、事務所に5名残し、7名
を案内所に出向(派遣)させたとする。
この事例では、事務所に3名の専任の取引主任者が必要であることに変
わりはない。案内所の7名も事務所の従業者に入るからだ。そして、取引す
る案内所を別個に設けたので、さらに、そこに1名の専任の取引主任者を
設置しなければならなくなる。よって、合計4名の専任の取引主任者を置く
必要がある。
案内所を事務所に所属しない独立のものと考えると(この考え自体があり
得ないのであるが)、この業者は、事務所に1名、案内所に1名、合計2名
の専任の取引主任者を置けばよいということになる。しかし、案内所を設け
ることによって、逆に、専任の取引主任者の数が少なくてすむという結果に
なる。それは、理論としてあり得ないことであり(この業者の全従業員は12
名いるのだ。)、また、脱法(案内所等に従業者を多く所属させ、専任の取
引主任者を少なくてすむようにする)に利用されるおそれがあるからだ。
事務所(本店・支店)と案内所等の違いは、そこに契約を締結することの
できる代理人(政令で定める使用人)がいるか否かである。だから、案内
所等の案件に関する契約は、その案内所が所属する事務所の政令で定
める使用人が業者を代理して契約することになる。
このことからも、案内所等は事務所に所属するのであり、事務所から独
立して存在するものではないということが導かれる。
冒頭の問題の解答は、それ自体は誤っていないが、出題者がこの業者
の従業者の数を21名+12名+6名=39名と考えているなら、その考え
は誤りである。
専任の取引主任者の補充と届出の問題
いうまでもなく、「事務所」には、業務に従事する者の5分の1以上の割合の
専任の取引主任者を、一定の案内所等には1以上の専任の取引主任者を設
置しなければならない(業法15条1項、規則6条の3)。そして、その法定数を
欠くに至ったときは、2週間以内に適合させるため必要な措置(補充措置)を
執らなければならない(業法15条3項)。
そして、事務所ごとに置かれる専任の取引主任者は、業者名簿の登載事
項となっているので(業法8条2項6号、15条1項)、事務所ごとに置かれる専
任の取引主任者の変更があったときは、30日以内に免許権者に変更の届出
(業者名簿の変更の届出)をしなければならない(業法9条、8条2項6号)。
だから、「事務所ごとに置かれる専任の取引主任者」が法定数を欠くように
なったときは、2週間以内に補充し、補充後30日以内に業者名簿の変更の届
出をしなければならないことになる。ちなみに、事務所の専任の取引主任者の
一人が退職しても、5人に1人以上の要件に影響がなければ補充の必要はな
いが、業者名簿の変更(その者の氏名を業者名簿から削除)の届出は必要で
ある。
これに対し、「案内所等の専任の取引主任者」が法定数を欠くようになったと
きは、2週間以内に補充しなければならないが、法9条の業者名簿の変更の届
出の必要はない。案内所等の専任の取引主任者は、業者名簿の登載事項では
ないので、法9条の変更の届出の対象ではないのである。
両者を区別することなく、「専任の取引主任者の法定数が欠けると、2週間以
内に補充し、補充後30日以内に業者名簿の変更の届出をしなければならない。」
などと書いてあるテキストがあるが、注意してほしい。
ただ、1人以上の専任の取引主任者を置くべき案内所等は、業務を行う10日
前までに、業務内容、その期間、専任の取引主任者の氏名等が届出事項とされ
ている(業法50条2項)。そして、知事は、業務の種別等の変更、期間の延長(1
年を超えるようになったときも)、専任の取引主任者を変更する場合等には、「再
度の届出」をさせているようである。知事の指導によるものと思われるが(業法71
条)、法9条の「業者名簿の変更の届出」義務の問題でないことはいうまでもない。
平成14年度の問31の肢1について
(本文では違反しないものはどれかと聞いている)
1 Aは、専任の取引主任者として従事していた宅地建物取引業者B社を退職し、
宅地建物取引業者C社に専任の取引主任者として従事することになり、B社は
宅地建物取引業者名簿登載事項の変更をAの退職から半年後に、C社はAの
就任から10日後に当該届出を行った。
これは、違反するものとされている。退職から30日以内に「変更の届出」がな
いからである。この問題については、特に断っていないが、出題者は、Aは、い
ずれも事務所の専任の取引主任者ということを前提にしている。問題文全体か
ら判断してそういえないこともない。やはり、事務所の専任の取引主任者という
ことを明らかにした方がよいと思われる。
この問題について、肢2に違反しないものがあり、2が正解となっている。
平成16年度の問33の肢3について
3 A社の専任の取引主任者がBからCに交代した場合、A社は2週間以内に
甲県知事に対して、宅地建物取引業者名簿の変更の届出を行わなければ
ならない。
これは、2週間が誤りで、30日以内に届出が必要。この問題については、
本文で、「A社の取引主任者は、専任の取引主任者であるBのみである」と
断っている。だから、Bは事務所の専任の取引主任者ということが前提にさ
れているので、問題はない。正解である正しいものは2の肢である。
平成19年度の問30の肢2について
2 宅地建物取引業者B(甲県知事免許)は、その事務所において、成年者で
取引主任者Cを新たに専任の取引主任者として置いた。この場合、Bは、30
日以内に、その旨を甲県知事に届け出なければならない。
これは、正しく、正解の肢として出題されている。ここでは、明確に事務所の
専任の取引主任者としている。最近の問題はこの点をちゃんと意識して出題
している。事務所の専任の取引主任者ということを明確にしなかったら、正し
い肢とはいえないことを注意してほしい。
平成24年度管理業務主任者試験
【問 29】 総会における議決権行使に関する次の記述のうち、区分所有法及び
マンション標準管理規約によれば、最も不適切なものはどれか。
1 賃借人が、賃貸人である区分所有者からの委任状を理事長に提出したので、
議決権行使を認めた。
2 2つの議決権を有する区分所有者が、同一議案について議決権の1つは反対
する旨の、もう1つの議決権については賛成する旨の議決権行使書を提出した
ので、それらの議決権行使を認めた。
3 専有部分の共有者の1人から転居先を総会招集通知場所とする届出がなさ
れていたが、議決権行使者の届出はなかったので、出席した在住共有者の議
決権行使を認めた。
4 区分所有者から提出された議決権行使書に署名押印はあるが、賛否の記載
がないので、有効な議決権行使とは認めなかった。
〇1 適切。議決権は、書面で、又は代理人によって行使することができる(区分
所有法39条2項)。そして、標準管理規約では、組合員又は代理人は、代理
権を証する書面を理事長に提出しなければならないとしている(標準管理規
約46条5項)。賃借人が、賃貸人である区分所有者からの委任状を理事長
に提出したので、議決権行使を認めたのは、適切である。
×2 不適切。2つの議決権を有する区分所有者が、同一議案について議決権
の1つは反対する旨の、もう1つの議決権については賛成する旨の議決権行
使(議決権の不統一行使)を認めるのは、不適切である。
×3 不適切。専有部分が数人の共有に属するときは、共有者は、議決権を行
使すべき者一人を定めなければならない(区分所有法40条)。そして、標準
管理規約では、住戸1戸が数人の共有に属する場合、その議決権行使につ
いては、これら共有者をあわせて一の組合員とみなすとし(標準管理規約46
条2項)、前項により一の組合員とみなされる者は、議決権を行使する者1名
を選任し、その者の氏名をあらかじめ総会開会までに理事長に届け出なけ
ればならないとしている(標準管理規約46条3項)。設問は、専有部分の共
有者の1人から転居先を総会招集通知場所とする届出がなされていたが、
議決権行使者の届出はなかったので、出席した在住共有者の議決権行使
を認めたとあり、届出のないものに議決権の行使を認めたことは、不適切
である。
〇4 適切。議決権行使書は、本人が書面で議決権を行使するものであり、賛
否の記載がないのは、有効な議決権行使とは認められないので、適切であ
る。
以上より、不適切なものは、2と3である。当初試験の実施団体は、正解は2
のみとしていた。しかし、後に3も正解との訂正を出した。最も不適切なものは
どれか、と問うているので、不適切な2と3から最も不適切なものを選ぶことも
できるかも知れない。しかし、法律の問題でそれは不可能である。「最も適切
なものはどれか」とか「最も不適切なものはどれか」というふうに出題されてい
るが、要するに、適切なものか、不適切なものを一つ選べばよいことになって
いる。今までそうだった。今後、まぎらわしい「最も」という表現を使うべきでは
ないと思う。
注→肢3について、仮に、転居先を総会招集通知場所とする届出をした者に
議決権を認めた場合には、どうか。この場合には、適切であると考える余地
がある。
区分所有法によると、専有部分が共有の場合、総会の招集通知は、共有
者のうち、議決権を行使すべき者にすればよいことになっている(区分所有
法35条2項、40条)。招集通知は議決権行使を担保するために認められた
ものだからである。そして、招集通知を受けるべき場所を通知したときは、
その場所に招集通知発する(区分所有法35条3項、標準管理規約43条2
項)。共有者の一人が「転居先を総会招集通知場所とする届出」をしておい
て、これとは別個に、他の者を「議決権行使者」として届出をしていなけれ
ば、前者の届出に後者の届出が含まれていると解される余地がある。
平成24年度管理業務主任者試験
【問 6】 請負と委任の異同に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っ
ているもののみの組合せはどれか。
ア 請負も委任も、いずれも諾成の双務契約である。
イ 請負においては、請負人は請負に係る仕事を第三者に行わせることはできな
いが委任においては、受任者は委託に係る法律行為を第三者に行わせること
ができる。
ウ 請負人は、仕事の目的物の引渡しと同時に報酬の支払いを請求することがで
きるが、受任者は報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後に報酬を
請求することができる。
エ 請負は、各当事者がいつでも契約を解除することができるが、委任は、委任
事務の履行の着手前に限り、委任者のみが契約を解除することができる。
1 ア・イ
2 ア・ウ
3 イ・エ
4 ウ・エ
×ア 誤り。委任は、諾成契約であることは問題ない。しかし、有償なら双務
契約であるが(受任者は事務を行う義務を負い、委任者は委任料(報酬)
を支払う義務を負う)、無償だと片務契約である。つまり、無償の場合、受
任者のみが債務を負い、委任者は何らの債務を負わない。片方の者だけ
が債務を負うということ(片務)。設問は、この区別をしていないので、誤り
である。請負は、諾成の双務契約である。
×イ 誤り。請負においては、請負人は請負に係る仕事を第三者に行わせるこ
とは「できない」のではなく、民法に明文はないが、できると解されている。請
負は仕事の完成が目的であり、仕事が契約通り完成すれば問題がないので、
特約がない限り、第三者に行わせても問題がないからである。
委任においては、原則として、受任者は委託に係る法律行為を第三者に行
わせることが「できる」ではなく、明文はないが、できないと解されている。委
任は当事者の信頼関係に基づいているため、誰が委任事務をやってもいい
とはいえないからである。ただし、復代理の規定を準用して、本人が許諾した
場合かやむことを得ない事由があれば、第三者に行わせることができると解
されている。
〇ウ 正しい。請負人は、仕事の目的物の引渡しと同時に報酬の支払いを請求
することができる(民法633条)。ただし、物の引渡しを要しないときは、仕事
の完成後に報酬の支払いを請求できる(同ただし書)。受任者は報酬を受け
るべき場合には、委任事務を履行した後に報酬を請求することができる(民
法648条2項)。
これらはあくまでも民法の規定である。当事者が報酬の支払い時期を別に
定めれば、これによるのである。
×エ 誤り。請負は、各当事者がいつでも契約を解除できるものではない。契約
を締結した以上、勝手に解除できるものではない。債務不履行(法定解除)
や特約(買戻しの特約や手付けによる解除等→約定解除)で解除できる旨
の定めがあれば、それらを理由に解除できることは別問題である。
委任は、各当事者がいつでも(履行の着手前に限らない)解除をすること
ができる(民法651条1項)。委任は特に当事者間の信頼関係に基づいて契
約がなされるので、民法が規定を置いているのである。ただし、解除したら、
後に損害賠償の問題等が発生す場合がある(同2項)。判例はいつでも解除
できない例外を認めているので注意すること。
以上より、誤っているものの組み合わせは、アとイ、イとエであり、1と3が正解。
注→当初試験の実施団体は、正解は3のみとしていた。しかし、後に1も正解と
の訂正を出した。誰にでもミスはあるものですが、しかし、特に、この民法の
問題は基本中の基本の問題であり(ただし、これが重要な問題とは思わない
が)、このような問題でミス問題を出し、しかも長い間気がつかなかったことに、
出題者(全員)のレベルを疑う。すこし本を調べればすぐに分かったはずです
が。ただし、後に誤りを公表し、追加合格者を出したことには、敬意を表したい。