2014年 5月の記事一覧
管理業務主任者試験において、「標準管理規約の定めによれば、・・・」
という問題が多く出題される。標準管理規約の問題は重要な問題であり、
その条文やコメントをしっかりと勉強する必要がある。
マンションの管理については建物区分所有法が規定しているが、この法
律だけですべてを規定して処理できるものではない。そこで、区分所有法
自体が30条1項において、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理
又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律の定めるものの
ほか、規約で定めることができる。」と規定している。
規約の中身については、法律(区分所有法や民法等)に違反しない限り、
区分所有者が自由に定めることができるというのが基本である。
①区分所有法で、規約で別段の定めることがでると規定している事項が
多くある。もちろん、このすべてを規約で定める必要はない。
②区分所有法が特に規約で定めることができると規定していなくても、
規約で定めることができるものもある。標準管理規約で定めている、管
理費や修繕積立金に関する規定、あるいは理事会に関する規定などは、
区分所有法には規定されていない。もちろん、この場合、法律に違反し
てはならない。例えば、公序良俗(民法90条)に反する定め(一定の宗
教を信ずる者は入居できないという定め)や、区分所有者以外の占有
者に議決権を与えたりすることはできない(これは区分所有法が区分
所有者に認めた議決権の侵害になるから(区分所有法38条等に違反
する))。
③区分所有法と異なる規約の定めができない事項がある。一番大事
なものは、3/4とか4/5の多数の賛成が必要とされている特別決議
要件である。これを規約で変更することはできない。ただし、唯一の例
外は、共用部分の重大な変更について、「区分所有者の定数」につい
てのみは、区分所有法自体が、規約で過半数まで減ずることができる
としている(区分所有法17条たたし書)。また、規約をもってしても、書
面又は代理人による議決権の行使を全く否定したり(たとえば、代理
人よる議決権の行使は認めるが、書面による議決権の行使は認めな
いというのもだめ)、著しい制限を加えることはできない。これは区分所
有法が区分所有者に認めた権利だからである(区分所有法39条2項)。
以上のように、区分所有法と管理規約の関係は大変複雑であり、区
分所有法等の法律について、かなりの理解がなければ管理規約の作
成はできない。そこで、国土交通省の法律の専門家が「標準管理規約」
を作成しているのである。
そこで注意してほしいのは、標準管理規約は管理に関する標準的な
ものを規定しているのであり、それに規定していない事項については、
管理組合はできないとか、あるいは自由にできるとかいうものではな
い。標準管理規約に定めがなくても、管理組合が総会等の決議ででき
るかどうかは、区分所有法等の法律の解釈で決まるのである。
試験問題を作成するにあたっては、このことをくれぐれも肝に銘じて
ほしい。標準管理規約の定めを問う場合には、明確に「標準管理規約
の定めによれば・・・」ということを明示してほしい。そして、問題の解説
をする人も、その旨を明確に意識してほしい。
平成25年度管理業務主任者試験
【問 37】 次の記述のうち、マンション標準管理規約によれば、「正当
な理由」が必要とされないものはどれか。
1 専有部分の修繕工事に関し、必要な調査を行うため、理事長が修
繕箇所への立入りを請求しが、その専有部分の区分所有者がこれ
を拒否する場合。
2 階段室をエレベーター室に改造することが専有部分の使用に特別
の影響を及ぼす場合に、その専有部分の区分所有者が承諾を拒否
するとき。
3 管理組合がバルコニーの防水工事を行うため、区分所有者の住戸
に接続するバルコニーへの立入りを請求したが、その区分所有者が
これを拒否する場合。
4 組合員からの総会議事録の閲覧請求及び閲覧の日時、場所等の
申出が不相当な場合に、理事長がこれを拒否するとき。
〇1 正当な理由が必要。専有部分の修繕工事に関し、必要な調査
を行うため、理事長が修繕箇所への立入りを請求したが、その専
有部分の区分所有者がこれを拒否する場合には、正当な理由が
必要である(標準管理規約17条5項)。
〇2 正当な理由が必要。階段室をエレベーター室に改造することは、
敷地及び共用部分等の変(その形状又は効用の著しい変更を伴
わないものを除く。)に該当し(標準管理規約47条3項2号)、特別
決議が必要である。この特別決議において、専有部分の使用に
特別の影響を及ぼす場合には、その専有部分の区分所有者の承
諾が必要であるが、承諾を拒否するときは正当な理由が必要であ
る(同7項)。
〇3 正当な理由が必要。敷地及び共用部分等の管理や共用部分で
ある窓ガラス等の改良の管理を行う者(通常管理組合である)は、
管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専
有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる(標
準管理規約23条1項)。この立入りを請求された者は、正当な理
由がなければこれを拒否してはならない(同2項)。よって、管理組
合がバルコニーの防水工事を行うため、区分所有者の住戸に接
続するバルコニーへの立入りを請求した場合に、その区分所有
者がこれを拒否する場合には、正当な理由が必要である。
×4 明文で正当な理由は必要とされていない。理事長は、議事録を
保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、
議事録の閲覧をさせなければならない。この場合において、閲覧
につき、相当の日時、場所等を指定することができる(標準管理規
約49条3項、電磁的方法が利用可能であれば、別個に49条5項
に規定されている)。
区分所有法では、議事録を保管する者は、利害関係人の請求が
あったときは、「正当な理由がある場合を除いて」、議事録の閲覧
を拒んではならないと規定されている(区分所有法42条5項、33
条2項)。ということは、正当理由があれば閲覧を拒否できるという
ことである。標準管理規約49条3項は、閲覧を拒否できる場合に
ついて規定していないが、「正当理由」があるのに、拒否できない
というものではない。そして、理事長が「閲覧につき、相当の日時、
場所等を指定することができる。」と規定しているのは、それが、
不相当であれば拒否できる「正当理由」になるということを示して
いる。これは、拒否する正当な理由の一つの事例であり、それ以
外に「閲覧請求権の濫用」(たとえば、いやがらせのために、何回
も閲覧を請求する場合等)となるような場合にも、拒否できる。
つまり、区分所有法に「正当な理由がある場合を除いて、議事
録の閲覧を拒んではならない。」とあるので、標準管理規約では、
「正当理由」について明文を置かず、日時等の指定ができる旨の
規定を置き、その一例を規定しているのである。
設問は、組合員からの総会議事録の閲覧請求及び閲覧の日
時、場所等の申出が「不相当な場合」とあるから、閲覧を拒否で
きる正当理由があるので、理事長はこれを拒否できる。
肢1、2、3の場合には、区分所有法に明文の規定がないので、
管理規約で「正当理由」がある場合に拒否できると規定している
のである。もちろん、これらについても、たとえ明文がなくても、正
当理由が必要と解釈できるが、はっきりさせるために、明文化し
たのである。
この肢4を正解とするためには、「明文で」正当な理由が必要と
規定されていないものはどれか、と聞いているものとして答えるし
かない。
平成25年度管理業務主任者試験
【問 30】 次の記述のうち、区分所有法及びマンション標準管理規約によ
れば、不適切なものはいくつあるか。
ア 管理組合が、大規模修繕工事の実施に向け、一級建築士事務所とコ
ンサルティング契約を締結する場合において、理事会が、同契約の締結
を管理組合の業務に関する重要事項であると判断したときは、契約の締
結に関する決定を理事会の決議で行うことができる。
イ 管理組合に専門委員会を設置するには、理事会の決議で設置すること
ができる場合がある。
ウ 理事長が管理費等の滞納者に対して、管理組合を代表して管理費等
の支払請求訴訟を提起するには、マンション標準管理規約によれば、理
事会の決議で行うことができる。
エ 理事長が、外壁に穴を開けた区分所有者に対して、共同の利益に反
することを理由に区分所有法第57条に基づき原状回復を請求するには、
理事会の決議で行うことができる。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
×ア 不適切。管理組合の業務に関する重要事項については、総会の議
決事項とされている(標準管理規約48条15号)。理事会の決議で行う
ことができるというのは、不適切である。
〇イ 適切。理事会は、その責任と権限の範囲内において、専門委員会を
設置し、特定の課題を調査又は検討させることができる(標準管理規約
55条1項)。
〇ウ 適切。理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事
会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行する
ことができる(標準管理規約60条3項)。
〇エ 適切。区分所有者が第6条第1項に規定する行為(建物の保存に有
害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益
に反する行為)をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、
他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、行為の停止等(差止請
求)を請求できる。この差止請求は、裁判外(訴訟外)でもできる。この
場合、各区分所有者が請求できるのである。総会の決議や理事会の
決議は不要である。ただし、より慎重を期すために理事会の決議を得
て行うことも、あえて不適切とは言えないであろう。しかし、この問題が
「原状回復を請求するには、理事会の決議を得なければできない」とあ
れば、不適切である。また、訴訟を提起する場合には、必ず総会(集会)
の決議(普通決議)が必要である(区分所有法57条2項)。そして、法人
ではない管理組合においては、全員で訴訟追行をするのは面倒である
から、管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議
により、訴訟の提起ができる(同3項)。あらかじめ規約で訴訟追行がで
きるものを定めておくことはできない。だから、規約で理事会の議決を経
て訴訟の提起ができると規定しても、その規約は無効である。設問は、
この点は明確にしていないので、訴訟外と考えて解答すればよい。もし、
原状回復の「訴訟」を理事会の決議を経て行うことができるとあれば、
明らかに不適切である。
試験の実施機関が、エについて、適切とも不適切ともいえるとして、1と
2を正解としている。
出題者は、標準管理規約の第67条第3項第1号を根拠にしてこの問題
を出題したのではないかと思われる。また、試験の実施機関が適切とも不
適切とも言えるとしているのは、問題の肢のどこを根拠にしているのかが
不明である。
どうも、出題者も、試験の実施機関も、区分所有法57条の問題と、標準
管理規約67条3項1号の問題を明確に区別せず、混同しているように思
われる。標準管理規約は、67条3項で「区分所有者等がこの規約若しくは
使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者以外
の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事
長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。」として、同
1号において、「行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の
請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること」
と規定している。
標準管理規約では、差止めや現状回復のための「訴訟」についても、理
事会の決議を経てできると規定している。これによると、エの肢は単純に
適切となりそうである。出題者の意図もそこにあったのではないかと思わ
れる。しかし、この規約の規定は、「規約・使用細則等に違反したときや不
法行為を行ったときの措置」についての規定であり、設問のエで聞いてい
る区分所有法第57条 でいう区分所有法第6条第1項に規定する行為(建
物の保存に有害な行 為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者
の共同の利益に反する 行為)に関するものではない。
「規約違反等の行為に対する措置」につい ては、区分所有法57条は規
定していない。区分所有法に規定していない事項については、法律(区分
所有法等)に違反しない限り、管理組合が規約で定めることができる(区
分所有法30条1項)。
標準管理規約のこの規定は、区分所有法57条とは別個の規約違反等
に関する措置であり、両者は矛盾するものではない。区分所有法57条の
規定の適用範囲と標準管理規約のこの規定の適用範囲を明確に区別し
て理解する必要がある。両者はその守備範囲が異なるのである。
したがって、平成22年度【問36】の肢2は「規約違反者に対し当該規約
違反行為の 差止めを求める訴訟の提起に関する承認又は不承認」につ
いては、理事会の決議のみで行うことができるものである。
宅建主任者試験や管理業務主任者試験において、最近はミス問題を公表して
いる。人間誰でもミスはある。正誤に関係するミスが判ればこれについて公表す
るのは当然のことである。
ところが、正誤には特に関係しないが、肢を検討すると、宅建試験の問題につ
いて今まで見てきたようにミス問題がたまにある。ミスであることは公表されてい
ないが、今後の出題者はこのことをしっかりと把握した上で、過去の問題を参考
にしてほしい。
これから、管理業務主任者試験の最近のミス問題に限定して見ることにする。
古い法律については、判例や通説が確定しているが、標準管理規約の解釈に
ついては、まだ判例も少なく、通説というほどのものが確立されていないものも
多い。また、標準管理規約全体について体系的に解釈をしているテキストも少
ない。規約と区分所有法との関係についてもしっかりと把握する必要がある。
このようなことから標準管理規約の問題についてミス問題が多くみられる。
平成25年度管理業務主任者試験
【問 13】 管理組合の会計及び承認に関する次の記述のうち、マンション標準
管理規約及びマンション標準管理規約コメント(単棟型)(平成16年1月23日国
総動第232号・国住マ第37号、国土交通省総合政策局長・同住宅局長通知。以
下「マンション標準管理規約」という。)の定めによれば、不適切なものはいくつあ
るか。
ア 管理組合は、建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査を行う
ため、必要な範囲内において借入れをすることができる。
イ 駐車場使用料等の使用料は、それらの管理に要する費用に充てるほか、修
繕積立金として積み立てることも可能である。
ウ 収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度の管
理費に充当することも繕積立金に充当することも可能である。
エ 管理組合は、管理費等に不足が生じた場合には、総会の決議により、その
都度必要な金額の負担を組合員に求めることができる。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
〇ア 適切。建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査を行うため
の費用は、修繕積立金から取り崩すことになっている(標準管理規約28条1
項4号)。そして、管理組合は、第28条第1項に定める業務(修繕積立金から
取り崩すことができる業務)を行うため必要な範囲内において借入れをする
ことができる(標準管理規約63条)。ちなみに、この借入金については、修繕
積立金をもってその償還に充てることができることになっている(標準管理規
約28条3項)。なお、この借入れ及び修繕積立金の取崩しについては、総会
の決議が必要とされている(標準管理規約48条6号)。
標準管理規約では、通常の管理に要する経費(管理費)に充てるための借
り入れは規定されていないことに注意。
〇イ 適切。駐車場使用料その他の敷地及び共用部分等に係る使用料は、それ
らの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てるとされて
いる(標準管理規約29条)。
×ウ 不適切。収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌
年度における管理費に充当することになっている(標準管理規約61条1項)。
繕積立金に充当することはできない。
〇エ 適切。管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25
条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求
めることができる(標準管理規約61条2項)。管理規約で定めているので、一々
総会の決議は必要でない。不足額の負担を確認的に総会の決議にかけても、
あえて不当ともいえないが、それはあくまで確認的なものである。そういう意味
であえて不適切とは言えないというだけのものである。
以上より、不適切なものは、ウの一つであり、1が正解。
エについて、平成24年度の【問13】の肢1でも同じような問題が出題されている。
それから、平成19年度の【問12】では、「理事会の決議を得なければならない」と
いう問題となっている。この19年度の問題では、これは誤りの肢として、正解の肢
になっている。これはどこが誤っているかというと、理事会の決議を経る必要がな
いということである。つまり、管理者(理事長)は、総会や理事会の決議を経ること
なく、不足金の請求ができるということを規定しているのである。ところが、一部の
解説に「理事会の決議ではなく、総会の決議が必要」として、誤りとしているものが
ある。平成24年と25年の出題者はこれに引きづられ、管理費等に不足を生じた
ときに、組合員に負担を求める場合には、総会の決議が必要だと誤解しているの
ではないかと思われる。平成19年度の出題者も、同じような誤解をしているのか
も知れない。
そうすると、「管理組合は、管理費等に不足が生じた場合に、総会の決議がな
ければ、その都度必要な金額の負担を組合員に求めることができない。」という
肢でも、適切と考えているのではないか。
しかし、これは明らかに誤りである。標準管理規約61条2項の「管理費等に不
足が生じた場合には」というのは、管理費や修繕積立金から支払うべき金銭が
現実に不足した場合についての規定である。つまり、管理組合が第三者に負担
する債務である。これについては、区分所有者全員が負担割合に応じて債務を
負うのであり(区分所有法29条1項、53条1項)、その都度必要な負担額を支払
う義務がある。組合に対する債権者(管理会社や大規模修繕をした会社など)は、
その不足額について、各組合員に対して、その負担割合で、支払いの請求や強
制執行ができる。しかし、それは大変面倒なことだから、組合(理事長)が責任を
もって各組合員から徴収すると規約で定めているのである。
管理費等の不足額については、総会の決議がなくても、各組合員が責任を負
う。ただ、この規約の定めがなければ、債権者は、総会で規約の定めと同じ決
議がなされない限り、個別に各組合員に請求することになる。そこで、規約であ
らかじめ定めておけば、組合と取引する相手方は安心して取引ができるという
ことになるのである。この規約の趣旨はこの点にあると解すべきである。
中には、管理費等の額並びに賦課徴収方法については、標準管理規約第48
条3号で総会の議決事項だから、不足額の徴収についても総会の決議が必要
だと考えている人がいるようだ。
確かに、管理費・修繕積立金をいくらにするか、その徴収方法(銀行振込みと
か、引き落しとか)はどうするかということは、総会の決議事項である。しかし、
管理費等の不足額というのは、管理組合が第三者に負担する債務である。管
理費等と明確に区別しなければならない。その債務にあてるために負担額を求
めることは、管理費等の徴収ではない。
例えば、大規模修繕等が控えていて、現在の修繕積立金では足りないという
ような場合には、その対策として、以下の三つの方法が考えられる。①増額す
る。②一時金を徴収する。この場合には、正に管理費等の徴収の問題として、
いずれも、総会の決議が必要である(標準管理規約48条3号)。さらに、③借入
れをすることもできる(標準管理規約63条)。そして、この場合にも総会の決議
が必要である(標準管理規約48条6号)。これらは、修繕の規模や金額等につ
いて、その都度の総会において組合員の意思を問う必要がある。現実に管理
費等が不足した場合の「管理費等の不足額の徴収」と明確に区別して考えなけ
ればならない。
繰り返しになるが、「不足額の徴収」に関する規定がなければ、組合(理事)
が各組合員から不足額の徴収をするためには、その都度総会の決議が必要
である。しかし、不足額は、各組合員が既に負担する債務であり、その額も確
定しているので、あらかじめ、規約に定めておくことによって、一々の総会の決
議をしなくても、理事が徴収できるようにしているのである。
管理費がこのままでは不足しそうだという場合にも、基本的には、修繕積立
金と同じである。①と②は、標準管理規約48条3号で、修繕積立金と同じ規定
がある。しかし、③の借入れについては、修繕積立金と異なり、標準管理規約
には規定がない(標準管理規約63条参照)。そこで、管理費に当てるためには、
借入れができないとか、あるいは、総会の決議がなくても、理事が借入れでき
るという意見がある。
この点について、平成21年度の【問13】は「標準管理規約の定めによれば、」
最も適切なものはどれか。としてその肢1で「管理組合は、通常の管理に要す
る経費に不足を生じた場合、総会の承認により、借入れをすることができる。」
と いう問題が出題されている。
この問題について、既に、アの問題の解説をしている。そこでも解説している
ように、「通常の管理費」に当てるための借入れについては、標準管理規約に
は規定がない。だから、問題に対する答えは、適切でないということになる。
それでは、管理組合は、通常の管理費の不足に備えて、あるいは、現実に
管理費が不足した場合、借入れができないか。
標準管理規約は、修繕積立金から取り崩すことができる業務を行うため必
要な範囲内において借入れができると規定しているのに(標準管理規約63
条)、管理費から充当すべき費用についての借入れについて規定していない
のは何故か。
修繕積立金を住宅金融支援機構や銀行から融資を受ける条件として、規
約が整備されていなければならいことになっているので、標準管理規約でも
これらについて、規定しているのである。
ところが、通常の管理費については、融資を受けるということは、通常考え
られない。管理組合が管理費に充当するために借入れをするということは、
組合の管理がいい加減だということである。それを規約で定めておくという
ことは、自らいい加減な管理をしているということを規約で宣言しているよう
なものである。また、まともな金融機関は、そのような融資をしない。だから、
標準管理規約に定めをしていないのである。
しかし、管理組合によっては、管理費に充当するためにどうしても借入れ
をせざるを得ない場合もあるかも知れない。増額の決議ができないとか、
一時金の徴収ができない場合に、どうしても借入れをしなければならず、
かつ、貸す人がいる場合、管理組合の業務として、借入れはできる。この
借入れは総会の普通決議でできると解される(区分所有法18条)。この
点は、修繕積立金のための借入れと同じである。標準管理規約63条は、
修繕積立金に関する借入れについて、区分所有法18条を受けた規定で
ある。ただ、管理費に関しては、規約に定めを置いていないということで
ある。
だから、規約に定めがないから、借入れができないとか、総会の決議な
くして借入れできるというものではない。